特集:認知症と漢方薬
痴呆症、アルツハイマー病、脳血管性痴呆、
ピック病と東洋医学(漢方薬・鍼灸)


漢方薬のアルツハイマー型痴呆に対する効果

痴呆のメカニズムと漢方薬(9種類、6種類の生薬調剤の有用性)

岡山大学 医学博士 大山博行



  研究業績  関連文献及び参考文献


  著書      

 

   


アルツハイマー病とは?

 アルツハイマー病は、初老期および老年期に進行性痴呆を来す代表的な疾患であり、
年齢とともにその頻度は急激に増加し、老年期の痴呆の半数近くを占めるといわれている。
 側頭頭頂領域の連合野の血流代謝の低下が早期から認められることが知られている。
進行すると前頭葉の血流代謝の低下も見られ,1次運動知覚領域と1次視覚領は末期にいたるまで比較的よく保たれる。
両側側頭頭頂領域の血流代謝低下はADに特異性の高い変化であるが
パーキンソン病に伴う痴呆でも同様のパターンが見られることがあるので鑑別に注意を要する。


アルツハイマー病患者の脳



上段:MRI(T1強調画像)、下段:PET(ブドウ糖代謝)。
皮質の限局性萎縮はないが、糖代謝は両側の側頭葉,頭頂葉で著明に低下している。

アルツハイマー病は、脳が次第に萎縮していき、知能、身体全体の機能が衰えていき、ついには死に至る病。
痴呆症は、大別すると、アルツハイマー型と脳血管性痴呆に分けられるが、
全国の65才以上の痴呆性老人は約165万人おり、最近では、アルツハイマー型が脳血管性を上回った。

平均発症年齢 52才

アルツハイマー病の経過

「前駆症状」
知的能力低下に先立つ2〜3年前から、軽度の人格変化(例: 頑固になった、
自己中心的、不安・抑うつ、睡眠障害、不穏、幻視妄想を認めることが多い。
「第一期」
健忘症状、空間的見当識障害(道に迷う)、多動・徘徊
「第二期」
高度の知的障害、巣症状(失語、失行、失認)
錐体外路症状(筋固縮)
「第三期」
高度な痴呆の末期で、しばしば痙攣、失禁、拒食・過食、反復運動、錯語、反響言語

*経過は4〜8年で、平均 6.8年。
生命予後が伸びた分だけ、介護(ケア)の必要な期間が伸びて大きな社会問題となっている。

<アルツハイマー病の症状>
強い記憶障害、見当識障害、知能低下、関心や意欲の低下

<似ている病気>
血管性痴呆、初老期痴呆、老人の症状性精神病

<アルツハイマー病解説>
 大脳の神経細胞が変化し、大脳皮質にアミロイドという異常蛋白が沈着(老人斑)し、大脳全体が萎縮していく変性疾患。
この疾患は40〜50歳で発病する早期発症型と、60〜70歳以後に発病する晩期発症型とに分けられる。
かつては早期発症型をアルツハイマー病、晩期発症型を老年痴呆と呼んでいたが、
今日ではこの両者を合わせてアルツハイマー病と呼ぶ。
アルツハイマー型老年痴呆という呼び方もある。
頻度としては早期発症型は少なく、大部分が晩期発症型。
 アルツハイマー病は我が国でも次第に増え、医学的にも社会的にも大きな問題になってきた。

<発病>
 今日、全世界でこの病気の原因の究明が、医学研究の最大の関心事の一つになっています。
 徐々に記憶力の低下が進行し、見当識もおかされます。
すなわち食事をしたばかりなのに忘れてしまったり、今日が何日か何月かもわからなくなります。
病院へ連れていってもそこがどんな場所なのか理解できなくなったりします。
 病気が進行すると、自分の年齢のだいたいの見当もつかなくなり、
社会的なことや自分自身の生活のことにも関心がなくなります。
 身体的にはかなり後期までしっかりしていて、まひなどないのがふつうです。

<現代医学の治療法>
 残念ながら現在のところ、根治的治療法はありません。また、確実な予防法もわかっていません。
 慣れ親しんだ環境の中で親しい人たちとの関係を保ち、生活の質を少しでも低下させないように、周囲の援助が大切です。
興奮症状や不眠などがあれば、対症的に鎮静剤や睡眠薬を用います。

<アルツハイマー病と気づいたらどうするべきか>
 専門医や保健所の老人相談を訪ねる。人間関係を密にして経過を見守ることが大切。
栄養や生活一般の点検、身体的な健康状態のチェックを行う。
 アルツハイマー病の中には、その進行が非常に遅いものや停止性のものがあり、
軽度ないし中等度のまま長く家庭生活を過ごせるアルツハイマー病の老人もいます。
 症状が非常に高度になると家庭での療養は困難になり、施設や病院での看護が必要になる。

 

脳血管性痴呆とは?

 脳の動脈硬化のため血流が悪くなり、あるいは心臓などの病気で生じた血栓が脳の血管に詰まって脳組織が壊死する(脳梗塞)。
脳出血による脳組織が破壊する。これらが原因で脳の機能が広範囲に障害をおこすと血管性痴呆になる。
 50〜60歳代に発病することが多い。
 我が国では脳血管性痴呆がアルツハイマー病より多く、欧米ではその逆であるというのが定説だったが、
しかし、近年我が国でもアルツハイマー病が増えて、脳血管性痴呆との比率が一対一に近いといわれている。

<脳血管性痴呆の症状>
記憶障害、知能低下、感情失禁、夜間せん妄など

<似ている病気>
アルツハイマー病、初老期痴呆、老人の症状性精神病、老人の生理的ボケ

<合併症>
脳卒中による四肢まひや失語症など、動脈硬化症による心疾患や腎疾患

<発病>
 動脈硬化症は高血圧や食事、糖尿病のような病気、それに体質も関係しておこる。
全身の動脈硬化症を予防することが脳動脈硬化症を予防することになり、ひいては脳血管性痴呆の予防にもつながる。
 脳血管性痴呆の約50%は脳卒中後に後遺症の形で現れる。残り50%は、徐々に記憶障害や理解力、判断力低下が見られることで気づかれる。
 脳血管性痴呆の記憶障害では、アルツハイマー病の場合に比べて、再生障害(自ら思いだすことはできないが指摘すれば思いだす)
や記銘力障害(新しいことの記憶の悪さ)がとくに目立つ。自分の過去の生活史の大まかな記憶は保たれる点でアルツハイマー病とは異なっている。
 しかも、脳血管性痴呆は、精神機能の反応が鈍くなり、判断力、理解力は衰えてきますが、
アルツハイマー病に比べて、人格、すなわちその人らしさは比較的よく保たれます。
感情はもろくなり、ちょっとしたことで泣いたりします(感情失禁)。夜ねぼけたような意識障害状態(せん妄)を示すことがときどきあります。
また、四肢の運動まひや脳神経のまひ、失語や失認などの神経心理学的症状を伴うことが多い。

<現代医学の治療法>
 脳の循環改善薬や代謝促進薬を用いる。
 脳の動脈硬化をそれ以上悪くしないような予防対策が必要。高血圧、糖尿病などの疾病があれば、その治療が必要。
<脳血管性痴呆に気づいたらどうするべきか>
 日常の生活を点検し、身体的にも精神的にも、少しでも良い状態を保てるよう注意します。
家庭内で長く療養でき、細やかな看護で生活を楽しめるような支援体制をつくる。


ピック病とは

 大脳の側頭葉と前頭葉が主として萎縮し神経細胞が脱落する疾患。初老期(40〜50歳代)にはじまる慢性進行型疾患。
アルツハイマー病よりもさらにまれな病気。 かつて初老期痴呆といわれていたものには、
アルツハイマー病、ピック病、クロイツフェルト・ヤコブ病の三つがありました。
 このうちアルツハイマー病は、今日ではアルツハイマー型老年痴呆の早期発症型とみなされ、
クロイツフェルト・ヤコブ病は、特殊な感染症と考えられる。

<ピック病の症状>
社会習慣への無関心や対人交流の無視、他人にふざけるような対応、徘徊、同じ文節の繰り返しや失語

<似ている病気>
アルツハイマー病の早期発症型、遅い発病の精神分裂病、心因反応

<発病>
 ピック病の原因は今日なお不明。 初老期になって徐々に日常生活が乱れてくることにより発見される。
理解しがたい行動がみられるようになる。例えば、社会的習慣を無視した不作法な行動をし、それを注意されてもケロリとしている
、店の品物を人のいる前で平気で自分の鞄に入れる、道に落ちている石ころを拾ってきて部屋に並べるなど、意味のわからない行動がみられる。
 また、人を嫌って避け、問いかけにもまったく無口で答えようとしなかったり、反対に人なつこく誰にでも話しかけたりします。
ニコニコして相手をからかうような言葉をかけたりする状態もあります。
無意味に同じ動作を何度も繰り返したり、同じ文節を繰り返して発言することもあります。
記憶や知能も次第におかされます。 身体的には最後まで元気で過ごしているのがふつうです。

<現代医学の治療法>
 ピック病の根治的治療法は、今日なおありません。
精神症状に対して、必要に応じて向精神薬を用いて、少しでも生活能力を保てるよう努力する。

  

「漢方薬のアルツハイマー型痴呆に対する効果」

 ’痴呆のメカニズムと究極の漢方’ 9種類、6種類の生薬調剤の有用性

 岡山大学 医学博士 大山博行 (Dr.Ohyama.)


1.はじめに

 高齢化社会を迎え、脳神経疾患が増加すると共に、アルツハイマー型痴呆や血管性痴呆に関心がよせられている。
これらの疾患は特にコリン作動性神経を中心とした神経細胞死を伴うが、その原因の一つにフリーラジカルの関与が示唆されている。
 抗痴呆薬としては、今まではタクリンが主流であったが、肝臓への副作用が多いことから現在は発売が禁止されている。
それに変わりドネペジルがエーザイ株式会社により開発され、ファイザー社から売り出されている。
タクリンより少ないものの副作用は確実にある。これら両薬剤の作用メカニズムは、コリンエステラーゼ阻害作用である。
 日本薬局方生薬、「芍薬」、「柴胡」を中心とした9種類の生薬を混合してできた漢方薬と、
日本薬局方生薬、「芍薬」、「当帰」を中心とした6種類の生薬を混合してできた漢方薬には、我々の研究から強力な活性酸素消去作用が確認された。
さらに、脳循環改善作用、脳代謝改善作用、脳波改善作用、遅発性神経細胞壊死抑制作用、神経突起再生作用、空間認知障害改善作用等が確認され、
エストロジェン分泌促進作用も確認された。この漢方薬(6種類の生薬混合)は、臨床上、卵巣機能不全、不妊症、生理不順、更年期障害といった婦人科領域で応用されている。
更年期障害時にエストロジェンの分泌は減少し、その時期に一致してアルツハイマー病の発症頻度が高い。
この事実から、エストロジェンと痴呆との関係が指摘され、米国ではエストロジェン療法が試みられている。
エストロジェンの分泌を促進するこの漢方薬には、タクリンやドネペジルのような副作用はない。
 今回は、6種類の生薬混合漢方薬について、共同研究者であり、友人でもある小松(工学博士)の発表論文より考察を加える。

2.コリン作動性神経賦活作用

 アルツハイマー病患者の剖検脳においては、コリン作動性神経の起始核であるマイネルト核の大型神経細胞に、80%の消失が認められている。
またアルツハイマー病患者の剖検脳では、アセチルコリンを合成するコリンアセチルトランスフェラーゼ(CAT)活性の低下やコリンの取り込みの低下、
アルツハイマー病患者の髄液ではアセチルコリンエステラーゼ活性の低下が認められている。
これらの知見はアルツハイマー病におけるコリン作動性神経系の変性を明示している。
 閉経期のラットにこの漢方薬を投与すると脳内コリン作動性ニューロン、カテコールアミン作動性ニューロンおよびニコチン性アセチルコリン受容体などの活性が高まる。
つまりこの漢方薬には、ニコチン親和性レセプターやアセチルコリン自体を増加させる作用のあることが確認される。
また3週齢のラットにこの漢方薬を1週間投与すると、大脳皮質のニコチン性アセチルコリンレセプター結合能は増加する)、
及び5ヶ月齢の雌性ラットにこの漢方薬を2週間投与すると、脳内のコリンアセチルトランスフェラーゼ活性は増加する。
さらに、老齢ラットにこの漢方薬を4週間投与し、脳内のCAT活性、アセチルコリンエステラーゼ活性及びムスカリンレセプター結合能を測定した結果、
線条体においてこれらの活性が上昇したことを認めた。これらの実験成績を勘案すると、
この漢方薬にはコリン作動性神経賦活作用のあることが示唆される。

3.ラジカル(活性酸素)消去作用

 癌、老化に伴う諸疾患、動脈硬化、糖尿病など様々な疾患及びパーキンソン病などの神経変性疾患にフリーラジカルが関与するという報告が集積されている。
アルツハイマー病患者の剖検脳においては、過酸化脂質の増加、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)活性の増加、
ミトコンドリアにおける電子伝達系のチトクロームオキシダーゼ活性の低下が確認されているが、
これらの現象は、アルツハイマー型痴呆の発症メカニズムにフリーラジカル(活性酸素)が関与していることを示唆する。
この漢方薬の懸濁液を用いて、抗酸化作用を電子スピン共鳴装置(ESR)を用いて分析すると、
ヒポキサンチン―キサンチンオキシダーゼ系により発生するスーパーオキシド、鉄―過酸化水素のフェントン反応により発生するヒドロキシルラジカル、
及びエタノールに溶解した1,1,-ジフェニル-2-ピクリルヒドラジルラジカルを濃度依存性に消去することが確認されている。
またこの漢方薬には、ラット脳ホモジェネート液に鉄とアスコルビン酸を加えて誘導される過酸化脂質の生成を抑制することも確認されている。
さらに老齢ラットの大脳皮質、海馬及び線条体の過酸化脂質の生成を抑制し、ミトコンドリア分画のSOD活性を上昇させることも確認されている 。(平松、小松)
 アルツハイマー病の脳においては、アミロイドの蓄積が報告されているが、アミロイドはフリーラジカルを産生する。
この漢方薬のフリーラジカル消去作用や過酸化脂質抑制作用は、アルツハイマー病の進行を抑えるのに有効であると考えられる。

4.DNA障害

 DNAは活性酸素種などの酸化ストレスを受けると、グアニンのヌクレオシドである2'-デオキシグアノシンの8位が水酸化され、8-ヒドロキシ-2'-デオキシグアノシン(8-OHdG)を生成する14)。
8-OHdGは老化、細胞の突然変異及び癌化などを引き起こすことから、DNA損傷のマーカーとして用いられている。
8-OHdGを含むDNAは、DNA合成中にGC(グアニン―シトシン)→ TA(チミン―アデニン)のトランスバージョンを引き起こし、遺伝子変異の頻度を増加させることが明らかにされている。
アルツハイマー病患者の剖検脳において、8-OHdG生成の増加およびその他のDNAの塩基の変異が認められている。
また、8-OHdGは老化に伴い増加することが報告されている。さらに、6ヶ月齢の成熟ラットと24ヶ月齢の老齢ラット脳の8-OHdGを比較すると
、老齢ラット脳の8-OHdGは成熟ラットに比べて増加していることを認め、8-OHdGの生成は加齢とともに促進されることが確認されている。
またこの漢方薬を1ヶ月間投与すると、老齢ラットの8-OHdGの生成は抑制されたが、成熟ラットにおいては変化は認められなかった。
雌雄老化促進モデルマウス(SAMP8)の3〜4ヶ月齢と7〜12ヶ月齢の脳内8-OHdGの生成を調べたところ、3〜4ヶ月齢に比べ7〜12ヶ月齢の8-OHdG生成は雌雄ともに増加していた。
またこの漢方薬を1ヶ月間投与すると雄群の3〜4ヶ月齢の8-OHdG生成は減少していたが、
雌群では変化は認められなかった。老齢ラット脳及びSAMP8雄群の脳内の8-OHdG生成の抑制作用は、
この漢方薬のフリーラジカル消去作用によるものと考えられる。(平松、小松)

5.脳細胞死

 神経細胞死にはネクローシスとアポトーシスとがあるが、いずれもフリーラジカルが関係していることが明らかにされている。
すなわちヒドロキシルラジカルやスーパーオキシドにより細胞外のグルタミン酸の放出が促進され、さらにグルタミン合成酵素が失活すると、
細胞外のグルタミン酸濃度は上昇する。次いでN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)レセプターはグルタミン酸が結合すると活性化し、
細胞内にカルシウムの取り込みが促進される。NO合成酵素が活性化され、アルギニンからNOラジカルが発生する。
NOラジカルはスーパーオキシドと反応してペルオキシナイトレートイオン(ONOO-)を生成し、細胞障害を引き起こすという説が支持されている。
 この漢方薬を雄性老齢ラットに1ヶ月間投与すると、大脳皮質、海馬、線条体のグルタミン酸量は低下することを見いだした。
また、雌雄老化促進モデルマウス(SAMP8)の3ヶ月齢にこの漢方薬を3ヶ月間投与すると、大脳皮質、海馬、線条体のグルタミン酸量は雌雄ともに低下していた。
これらの実験成績から、この漢方薬は脳内のグルタミン酸量を低下させる。細胞外にグルタミン酸が過剰に存在すると脳細胞死が起こるが、
この漢方薬がグルタミン酸量を低下させることは非常に興味深い。(平松、小松)
 ラットグリア腫瘍細胞(C6)にグルタミン酸を加えると、細胞死が誘発される。しかしこの漢方薬にはグルタミン酸による細胞死を抑制する働きが確認されている。
この抑制作用もこの漢方薬のフリーラジカル消去作用によるものと考えられる。またアルツハイマー病において脳内にアミロイドが蓄積するが、
アミロイドはフリーラジカルを産生し、神経細胞死を引き起こすことが報告されている。これらの知見から、
この漢方薬にはアルツハイマー病の脳細胞死を抑制する作用があると考えられる。

6.記憶障害

 痴呆の病態モデルとして、アセチルコリン拮抗薬であるスコポラミンを投与するモデルがある。
アルツハイマー型痴呆では、脳内のアセチルコリンの低下が認められているが、スコポラミンを投与したラットは空間認知障害、学習・記憶障害を示す。
この漢方薬を予め投与しておくと、スコポラミン投与ラットの空間認知障害は有意に改善する。
また、受動的回避反応を学習したラットにスコポラミンを投与すると学習能力が低下するが、この漢方薬の投与により学習能力は回復する。
痴呆の病態モデルを用いたこれらの実験成績から、この漢方薬は痴呆症患者の学習・記憶障害を改善すると考えられる。

7.臨床成績

 水島は、老年痴呆の患者さんに8週間、この漢方薬を投与したところ、運動機能などの軽度改善以上は74%であったことを認めた。
稲永らは、認知障害のある患者にこの漢方薬を投与し、改善傾向のあることを報告している。
福島らは、脳血管障害後遺症に対してこの漢方薬を8週間投与したところ、全体の87.5%から62.5%に改善傾向がみられたことを報告している。
十束らは、アルツハイマー病患者にこの漢方薬を投与し、有意な改善効果を認めている。
このように臨床領域においては、運動機能、知的機能、感情機能、及びその他の精神病状において改善が報告されている。

8.結語

 老化促進モデルマウス(SAMP8)は、学習・記憶障害が特徴的に見られ、主に中枢系の実験に用いられている。
3ヶ月齢の雌雄老化促進モデルマウスにこの漢方薬を3ヶ月間投与すると、雌群において大脳皮質、海馬及び線条体の_-アミノ酪酸(GABA)は増加することが明らかにされている。
この漢方薬は脳下垂体前葉に作用して性腺刺激ホルモンを分泌させ、エストロジェンの分泌を促進する。
エストロジェンはGABA量を増加させるので、この結果は、この漢方薬によるエストロジェン分泌促進作用を確認できる。
 単一成分ではない漢方薬はその作用機序が複雑であるが、それゆえに多くの薬理作用を有している。
ドネペジルなどのコリンエステラーゼ活性を抑制する単一の薬理作用に比べて、この6種類の生薬、混合漢方薬にはフリーラジカル消去作用、
コリン作動性神経機能の賦活及び行動実験による空間認知障害の改善作用があり、臨床成績にも効果がみられ、
また副作用の少ないことを考え合わせるとこの漢方薬は国際的にアルツハイマー型痴呆の治療薬もしくは予防薬となりうることが大いに期待できる。

以上



<特集:アルツハイマー病>

*アルツハイマー病の知識と理解を深めることが最大の予防

現在65歳以上の高齢者数は2187万人。その数は、あと20年もすると3334万人へと増加すると予測されている(平成12年版厚生白書)。
さらに、このうち65歳以上で痴呆症が発生する割合は5%から10%といわれる。

1)痴呆症と物忘れの境界線を見極める!

 長生きはしたいがボケたくない。家族に迷惑をかけたくない。年を重ねれば誰もが思うことだろう。
そんなとき、頻繁に物忘れをしたり、勘違いが増えたりすると、不安になり、とうとう自分もボケてしまったとか、落ちこんでいる人も多く 見かけます。
しかし、この物忘れ、勘違いと、いわゆるボケ(痴呆症)は全く違うものなのです。
友人や物の名前が出てこなかったり、漢字を忘れたり。それでも後になってハッと思い出す のは、若い人にもよくあることです。
「ほらほら、あれあれ」と、固有名詞が喉元まで来ているのに言葉に詰まるのは正常な物忘れ(健忘)であって直接痴呆とつながることは少ないのです。
 では、痴呆症との境界線はどこにあるのか? 例えば知り合いが訪ねてきて、品物をあずかったとします。
その品物をあずかったことは覚えているが、来た人の名前がすぐには思い出せない。これは、正常な物忘れ(健忘)と考えてよいのです。
 医学的に痴呆症と診断されるのは、エピソード記憶の障害、判断障害、例えば、結婚式、お葬式、知人が訪ねてきた事実自体をすっぽり忘れてしまう。全てのことが思い出せない。
本人に「このイベントのことを聞いても「知らない」あるいは何も答えないという具合になる。
 痴呆症は、日常生活に支障をきたすほど物忘れが進行し、判断能力や計算能力の低下が認められた状態を言います。
ただ日常の生活に支障はないが、「今言ったことをすぐ忘れる」、「同じことを繰り返し尋ねる」、「話が通 じない」、「無感動」、「不活発」、
「日中ボ〜としている」、このような症状が頻繁に見受けられるようであれば、痴呆症の初期を疑うこともよいでしょう。

2)アルツハイマー病は、いまだに原因不明、不治の病

 痴呆症は主に『脳血管性痴呆症』と『アルツハイマー型痴呆症』の2つに分類することができます。
ここではアルツハイマー病について説明します。
 アルツハイマー型痴呆症は、主に前頭葉、海馬、視交差上核(体内時計)の細胞が脱落、死滅し、脳が萎縮することによって痴呆が生じる病です。
脳血流量と脳代謝量も減少しています。  では、なぜアルツハイマー病になるのか? 
その原因はまだ明らかではありませんが、現時点ではアセチルコリンという脳の神経伝達物質が減少していること、
脳の萎縮、老人班、神経原繊維変化と呼ばれる状態が確認されています。
 その中でアセチルコリンを脳内で増加させる薬が開発され、治療に活用されるようになってきていますが、重症の人に対する効果 はまだ確認されていません。
平成11年より承認されたドネペジル(アリセプト)という薬が、そのひとつです。ドネペジルは抗コリンエステラーゼ阻害剤という薬に分類され、前記のアセチルコリンを補う薬です。
 アルツハイマー型痴呆症に対する決定的な治療方法は開発されていないので、早期発見、早期治療開始が重要となりますが、
それにまして重要なのは、予防策で、アルツハイマー病にならないようにする。進行を遅らせる。これが、最も重要です。

3)家族が気付く、痴呆の初期症状

 もし、家庭の中でアルツハイマー型痴呆症の疑いがある人がいたなら。前記したとおり、早期治療が最も重要になってくる。
そこで、痴呆症、アルツハイマー病を疑う必要性を判断するための手順を列記してみます。

*在宅で痴呆症の患者さんを介護している家族が、最初に気づいた日常変化。

 1)同じことを言ったり聞いたりする。
 2)物の名前が出てこなくなった。
 3)置き忘れやしまい忘れが目立った。
 4)以前はあった関心や興味が失われた。
 5)だらしなくなった。
 6)財布を置き忘れて盗まれたと言う。
 7)慣れているところで道に迷った。
 8)計算の間違いが多くなった。
 9)ささいなことで怒りっぽくなった。
10)時間や場所の感覚が不確かになった。
11)蛇口やガス栓の締め忘れが目立った。
12)日課をしなくなった。
13)テレビドラマが理解できなくなった。
14)お薬の管理ができなくなった。
15)以前よりひどく疑い深くなった。
16)いつも降りる駅なのに乗り過ごすことが多くなった。
17)夜中に急に起き出して騒いだ。

以上まとめると
a)日常生活に支障をきたす「記憶障害」がある。
b)日常生活に支障をきたす「認知障害(記憶障害を除く)」がある
c)うつ病はない(除外項目)
d)意識障害(せん妄)はない (除外項目)

以上のa)〜d)の経過を見て、数週間ないしは数カ月の期間に限られたものではないことを確認、
少なくとも1年(通 常2年から5年) 以上前から徐々に症状が認められればアルツハイマー型痴呆症を含む痴呆症の可能性が高い。
アルツハイマー型痴呆症は、40歳代の働きざかりから発病する可能性があり、
家族が症状に気づいてから受診するまで平均2年から3年かかると言われている。
家族または自分自身でも注意することは必須。

4)アルツハイマー型痴呆症の重症度判定


段階
臨床診断
特徴
正常
主観的にも客観的にも知能低下はない。
年齢相応
物の置き忘れの訴えや喚語困難がある。
境界状態
日常生活での機能低下は顕在化しないが、他人が見て仕事の効率の低下がわかる。
軽度
日常生活では支障は目立たないが、将来の計画を立てたり、段取りをつけることができない。また社会生活・対人関係で支障をきたす。
中等度
日常生活でも部分介助が必要だが、失禁はない。気候に合った服を選んで着ることができず、理由もなく着替えや入浴を嫌がる。
やや高度
不適切な着衣をするので、着衣に介助が必要になる。靴ひもやネクタイは結べない。入浴はするが、洗濯は困難。失禁をきたすようになる。
高度
日常生活で常に介助が必要。同居している家族もわからなくなる。簡単な指示も理解できない。




アルツハイマー型痴呆の診断
<痴呆の評価判定方法>
スクリーニングのための知的機能検査法

改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)

1)特徴
痴呆のスクリーニングテストとして、わが国で最も古い歴史をもつ長谷川式簡易知能評価スケールの改訂版である。
このスケールは、老人のおおまかな知能障害の有無と、障害の程度をおおよそ把握することができる特徴をもっている。
検査にあたって本人の生年月日さえ確認できていれば、家族や周囲の人から、あらかじめ情報を得ることなしに評価できる。

2)使用方法
このスケールは、被験者に面接し質問方式で行うもので、スケール表に記載された問題を順次、1問ずつ読み上げ答えを求める。
しかし、最初から「テストをしますよ」といった調子で施行するものではなく、なるべく日常会話の中に取り入れ自然に行っていくのが望ましい。
痴呆の老人は1日のうち、しばしば覚醒水準の変動がみられることが多いので、本人の状態を記載しておくとよい。

3)判定方法
HDS-Rの最高得点は30点である。
20点以下を痴呆、21点以上を非痴呆としている。
各重症度別の平均得点は、以下のごとくである。

非痴呆:24.3±3.9
軽度:19.1±5.0
中等度:15.4±3.7
やや高度:10.7±5.4
非常に高度:4.0±2.6

以上
HDS-R 改訂長谷川式簡易知能評価スケール 

 Eisai & pfizer 提供資料

MMSE Mini-Mental State Examination 

 Eisai & pfizer 提供資料


プロフィール
●氏名     大山博行
●専門分野  漢方医学(漢方薬)、経絡医学(鍼灸)、神経心理学(臨床心理学)
●アルツハイマー関連著書 光文社「脳を守る漢方薬」
●住所     栃木県佐野市金屋仲長町2432 大山漢方薬局
●電話     0283-22-1574
●受付時間 午前9時〜午後11時まで 土曜日12時まで
        毎週、木、日、定休
●大山博行先生(Dr.Ohyama)へのアクセス方法
E-mail to Dr.Ohyama./kampo_papa@hotmail.com
●大山先生から一言。 
痴呆症について知識と理解があれば、その症状を早く見つけて治療をはじめることは可能。
それは進行を遅らせることでもあり、福祉サービスの利用や今後の対応にも時間を使えるということ。
Dr.Ohyama プロフィール


 E-mail to Dr.Ohyama.


  漢方薬のボケ防止作用 (著書「脳を守る漢方薬」より) Dr.Ohyama.


大ベストセラー 光文社・カッパブックス 痴呆症・アルツハイマーは、もう怖くない

「脳を守る漢方薬」 岡山大学 医学博士 大山博行

大ベストセラー 光文社・カッパブックス 痴呆症・アルツハイマーは、もう怖くない

「脳を守る漢方薬」 岡山大学 医学博士 大山博行

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