Sun R&D Institute for Natural Medicines
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Div. )
有限会社 「サン自然薬研究所」
代表取締役 研究所長
医学博士 小松靖弘 プロフィール
President & General Manager
Dr. YASUHIRO KOMATSU (Ph.D.,D.V.M.)
2000 順天堂大学 医学博士 小松靖弘先生 近影
1941年、東京都生まれ。医学博士。
1964年、東京農工大学農学部卒業。1977〜1978年
Department of Cell Biology, Auckland
University New Zealand 留学。
J.Marbrook 教授 のもとで細胞免疫学を学ぶ。1979年〜1985年 順天堂大学医学部 組織培養研究室にて、抗ウィルス剤、インターフェロン誘導剤
に関する研究に取り組む。1984年、順天堂大学医学部にて、インフルエンザウイルス感染細胞特異的細胞障害リンパ球の誘導に関する研究にて、
医学博士の学位を授与。1993年より、東京女子医科大学東洋医学研究所、筑波大学医学系東洋医学、大分医科大学薬理学教室、
金沢医科大学血清学教室にて非常勤講師を歴任。東京農工大学を卒業後、大手製薬企業、大手食品企業の研究開発部門にて新薬開発研究に従事。
1984年より、日本最大の漢方薬企業、(株)ツムラにて漢方薬の薬効薬理研究に注力。
2002年から(有)サン自然薬研究所代表取締役所長。
2005年、明治薬科大学客員教授。
専門分野は免疫薬理学、アレルギ−学であるが、広く漢方薬、生薬の薬効薬理研究を手がけ、
本分野の研究では指導的役割を果たいしている研究者の一人として知られている。
「和漢医薬学会」 評議員。
「獣医東洋医学研究会」 副会長。
医学博士 小松靖弘先生 「統合医療ジャーナル」 平成25年1月20日発行 2013;Vol. 07 掲載記事より引用
漢方・サプリを併用する「がん統合医療」、
治療中の副作用緩和に「十全大補湯」が有効、漢方は、体にやさしく穏やかに症状を改善する
漢方生薬研究所所長 小松靖弘氏
◆副作用の特効薬はまだ見つからない
現在、多くのガン患者さんが手術や抗がん剤、放射線などの治療を受け、術後の不具合や副作用などに苦しんでおられる。
がん治療時の副作用などの軽減、患者さんの全身状態の改善のために、さまざまな薬や食事療法などが行われているが、
その“特効薬”はいまだに見つかっていない。しかし、がん治療時の副作用の軽減、患者さんの全身状態の改善のための方法がないとはいえない。
その一つの方法が、漢方薬「十全大補湯」の有効な活用だと断言できる。
私が、ヒトの免疫調節にとって有効な働きをする十全大補湯の研究を始めたのが1984年、約30年になる。
私たち研究グループは、動物実験で十全大補湯が抗がん剤による副作用を抑制するかどうかの検証をしてきた。
その結果、現在、術後の副作用や体力が改善しない多くの患者さんのために、この十全大補湯が大きな力を発揮すると、ますます確信を深めている。
◆抗がん剤の肝臓障害を抑えた
シスプラチンという抗がん剤を投与した場合、副作用として腎臓に障害を与えるケースが多いことはよく知られているが、
これに対して十全大補湯はどのような有益な効果をもたらすか、マウス実験で検証した。
マウスにシスプラチンを投与する1時間前に十全大補湯を与えた。
すると十全大補湯を与えなかったマウスと比較して、腎臓の障害がかなり低く抑えられたことが確認できた。
大きなポイントは、シスプラチン投与の後に十全大補湯をを与えてもその効果はほとんど発現されなかったということである。
これはどういうことかといえば、あらかじめ体に摂取されていた十全大補湯の成分が抗がん剤による障害を与えないようにした。
しかも、良いことに十全大補湯によって抗がん剤の抗腫瘍作用が低下することがなかったことを確認できたことである。
つまり、西洋医学の現場で治療薬として使われている薬と、漢方薬・十全大補湯を併用してもなんら悪い影響はない。
それどころか、十全大補の効果が、逆にそれた抗がん剤の副作用を抑制する作用が発揮されるのである。
がん治療に限らず、治療薬に対する西洋医学と漢方医学の大きな違いは、西洋医学では原因に直接働く薬効の強い薬を開発しようとするのに対し、
漢方では体にやさしく穏やかに種々の症状に効く薬を追及する点だといえる。
◆補剤と瀉剤のバランスが大事
十全大補湯は数多くある漢方薬の中の補剤とよばれる処方の一つである。
漢方医療では、補剤と瀉剤とのバランスのよい組合せが求められる。
補剤とは、患者の体力を高め、自然治癒力を賦活するために用いられる漢方薬である。
消化吸収機能を高めて栄養状態を良くし、血行を改善して細胞組織の新陳代謝を促進して治癒力を増強する。
そこで注意が必要となるのは補剤の滋養強壮の働きは、時にはがん細胞の増殖をも促進する可能性がある。
このような状態の時に、直接病気の原因となるものを攻撃したり、あるいはとり除くために抗がん作用、
抗炎症作用、抗酸化作用、血液循環促進作用などを持つ生薬を使った瀉剤を適切に併用すると、大きな効果が期待できる、
つまり、がん治療の西洋薬と十全大補湯がバランスよく体に働き、術後や治療時に大きな力を発揮するのである。
術前の体力増強、免疫補強も大事なポイントだ。
手術前でも抗酸化作用を持ち合わせている十全大補湯などの漢方薬を前もって摂取しておくことは大事だといえる。
がんの初期治療を終えた患者にとって一番の不安や心配は再発だ。
がん治療で落ちてしまった体力をつけ、免疫力の増強をはかる、
あるいは抗がん剤と併用して抗がん剤の副作用を軽減する目的で十全大補湯を使うのは効果的だといえる。
がん患者さんには他の補剤、「補中益気湯」、「人参養栄湯」などが体力増強、食欲増進のためによく使われている。
◆再発予防に免疫強化を
がんになった人は免疫力が低下する。がんと闘うためには免疫力を普通の健康人レベルにまで上げておくことが必要であると考えている。
そのためには1日でも1週間でも、とにかく治療が始まる前から飲みはじめるのがいい。(ただ、白血病など血液のガンの場合は別と考えた方が良い)。
手術や抗がん剤治療、あるいは放射線治療にしても、治療によって患者の体力はかなり奪われてしまう。すると副作用も出易くなる。
十全大補湯にはもともと免疫を賦活する力、副作用を軽減する力がある。
初期治療、がん組織の手術的除去が終わった後、「治療でがんが消えました」などと言う医師の話をよく聞くが、
それはありえないことで、安心してはいけない。手術が成功して治ったと思っていたら、数年後に再発したという例はいくらでもある。
むしろ初期治療が終わってからが本当の治療が始まると思ったほうがいい。
再発予防にはとくに自然免疫を強くしておく必要がある。自然免疫を担当するのはNK細胞やマクロファージなどの免疫細胞だが、
マウスを用いた十全大補湯の実験で、十全大補湯がこの免疫賦活の働きを促進することが確認されている。
体力が落ちて、また西洋薬が効かなくなったがん患者さんに漢方薬を投与しても、とてもがんの治療に効果を発揮するとは考え難い。
体力がしっかりしているときこそ漢方薬を使うべきだと考えている。
◆キノコのサプリも免疫賦活作用
免疫反応性を賦活するものは漢方薬だけではない。今、健康補助食品として市販されている多くのキノコ製品類がある。
また、キノコ由来の医薬品も存在している。キノコは真菌の仲間で、微生物である。
当然、抗原性を持っており、摂取すれば免疫を刺激する事は想像に難くない。
どのキノコが良いかは一概に言えない。使って見て、自分に良い物を見つける事である。
キノコ自体の抗がん作用はあまり強いものでは無いが、私が実験した中では●芝(牛●樹に寄生する台湾特産のキノコ)、
カバノアナタケ(チャーガとも呼ばれる白樺の木に寄生するキノコ)には他のキノコと異なって
試験管内試験でIC50値(50%の抑性を示す値)は40〜50?/mlを示し、比較的効果が強いのではないかと考えている。
健康補助食品のキノコ類が十全大補湯と同じように制がん剤の副作用である骨髄抑制を改善するか否かは不明で、今後の研究課題と考える。
多くのがん患者さんが治療時の副作用で体調不良に苦しむのを実際に見聞きするにつけ、
この十全大補湯などの補剤の活用を、がん治療に携わるより多くの医師に知っていただき、
現場で活用していただければと願ってやまない。
●小松靖弘(こまつ・やすひろ)プロフィール
1941年東京生まれ。医学博士、獣医師。
64年東京農工大学農学部獣医学科卒業。
77〜78年順天堂大学医学部組織培養研究室にて抗ウイルス剤、インターフェロン誘導剤に関する研究に従事。
84〜2000年(株)ツムラにて漢方薬の薬理研究に取り組み、十全大補湯の免疫薬理学的研究を最初に手掛けた研究者である。
02年からは(有)サン自然薬研究所代表。その他、(株)ツムラ在職中、東京女子医科大学東洋研究所、
筑波大学医学系、金沢大学血清学教室非常勤講師、この後、明治薬科大学客員教授など歴任、
専門分野は免疫薬理学、アレルギー学。現在は、自然薬研究の豊富な経験を活かしコンサルタントとして活躍中。
【十全大補湯とは】
十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)は、体力や血液を補う代表的な漢方薬。
倦怠感、食欲不振、息切れ、ふらつき、手術後や病後・産後の衰弱、不正出血、貧血、脱肛、痔ろう、生理不順などに効果があり、
がんによる体力補強に用いられる。また、疲労、虚弱体質、食欲不振、手足の冷え、めまい、貧血などにも効果を発揮する。
原料は、人参(オタネニンジンの根)、熟地黄(ゴマノハグサ科の肥大根を酒で蒸して乾燥したもの)、
白朮(オケラなどの根茎)、茯苓(サルノコシカケ科の菌核)、当帰(セリ科の根)、白芍(シャクヤクの根)、
川弓(セリ科の根茎)、甘草(マメ科などの根やストロン)、肉桂・桂皮(クスノキ科のケイの幹皮・樹皮)、黄耆(マメ科の根)など。
医学博士 小松靖弘先生 別冊 月刊がん 「もっといい日」 -代替療法最前線-食品の抗がん効果
食品の抗癌効果を考える
臨床試験&動物実験による
抗癌効果の確認
別冊 月刊がんもっといい日-代替療法最前線- 食品の抗がん効果
本紙でシリーズとして連載されている 「食品の抗がん効果を考える」
こちらでは研究編・症例編にて、数々の実証された代替療法をとりあげています。今回の別冊「食品の抗がん効果」では、
その連載 2004年1月号 〜 2005年2月号までの内容をまとめた15の食品素材を31人の医師・研究者が検証。
第一章ではアガリクス・カバノアナタケ・紅豆杉・コラーゲン・ノニ・メシマコブ・ピクノジェノールなどなど食品がもたらす抗がん効果について。
第二章では、臨床医と研究者が各素材の抗がん効果について解説しています。
15の食品素材
・アガリクス
・カバノアナタケ
・紅豆杉
・高麗人参
・米ぬかアラビノキシラン誘導体
・コラーゲン
・納豆菌由来成分
・ノニ
・パン酵母
・ピクジノジェノール
・フコイダン
・マイタケ
・紫イペ
・メシマコブ
・免疫ミルク
医学博士 小松靖弘先生 月刊がん 「もっといい日」 シリーズ 「食品の抗がん効果を考える」 連載記事
食品で免疫力・抗酸化活性を高めて
がんに立ち向かう
食品の抗がん効果を考えるL
月刊がん 「もっといい日」 シリーズ「食品の抗がん効果を考える」L
食品で免疫力・抗酸化活性を高めてがんに立ち向かう
今月号の特集2でもふれているが、がんになった人の8割以上がなんらかの健康食根を摂取しているという。
とはいえ、何をどう選んだらよいかわからない、またどのくらい続けるべきのか迷うというような声も聞かれる。
がんになった人は、どのような食品をどのように摂取すればよいのだろうか。
漢方薬や健康食品の研究開発に長年携ってきた小松靖弘氏に伺った。
初期治療後に本当の治療が始まる。まずは免疫力を高めることから
がんになると、健康食品をとり始める人は多い。けれども、数ある健康食品の中からいったいどれを選べばよいのだろうか。
「がんに効果的な健康食根はこれです、と明確に答えることはできません。もしそのようなものがあったとしても、健康食根は医薬品ではありませんから、
人によって効果に差が出やすいものですし、体質的に合う、合わないということもあるでしょう。
ただ、がんになった人は免疫力が低下する可能性が考えられます。
そこで、がんと闘うためには免疫力を普通の健康人のレベルにまで上げておくことが必要です。
ですから、免疫細胞を賦活するような健康食品を摂取しておくのは、よいことだと思います。」
がんによいとされる健康食品はいろいろあるが、まずは免疫力アップに有効なものを選ぶのが基本といえそうだ。
では摂取し始めるタイミングはいつがよいのだろうか。
「とくに決まりがあるわけではありませんが、一日でも一週間でも、とにかく治療が始まる前から飲み始めるのがよいと思います(ただ白血病など、血液のがんの場合は別ですが)。
手術や抗がん剤にしても、放射線治療にしても、治療によって患者さんの体力はかなり奪われてしまいますから、副作用も出やすくなるんだすね。
あらかじめ、免疫を賦活する健康食品などで免疫力をアップしておけば、副作用が軽減されつらい治療を乗り越えやすくなります。」
また、初期治療が終わった後、たとえ医師から「治療ががんが消えました」などと言われても、そこで安心してまたもとの生活に戻ってはいけないと小松氏は話す。
「手術後医師から、“腫瘍は全部きれいに摘出しました”などと言われると安心して、またもとの生活に戻ってしまう人もいます。
けれども、手術が成功して治ったと言われ、1、2年後に再発したという例はいくらでもあります。
一度がんになった人は、がんになりやすい生活を送っていたわけですから、もとの生活に戻ってしまったら再発する危険が生まれることになります。
初期治療が終わってからが、本当の治療がスタートするくらいの心構えでいたほうがよいくらいです。
過剰に再発の心配をする必要はありませんが、可能であれば抗がん剤治療を続けたり、食生活を改善、健康食品の摂取など、できることはなんでもして生活習慣をあらためておくべきです。」
人の免疫システムには自然免疫と獲得免疫の2種類がある。
自然免疫は生まれたときから備わっている免疫で、切り傷や疲れ、ストレスなど日常的な不具合に立ち向かうものだ。
一方、獲得免疫とはある病原体に感染して初めて得る免疫をいい、病原菌やウイルスなど命を脅かす強敵に立ち向かう。
「再発予防にはとくに自然免疫を強くしておく必要があります。
自然免疫を担当するのは、NKキラー細胞やマクロファジーなどの免疫細胞なのですが、ヌードマウスを用いた実験で、
自然免疫系の細胞を人為的に壊すと、発がん率が上がるという結果が出ています。
その点、キノコ系の健康食品は自然免疫を強化する作用が考えられますから、がん予防あるいは、がんを経験した人の再発予防に役立つものと考えられます」
健康食品は薬ではないから、用法・容量はとくに決まっていない。
たくさんとればとるほど効果がありそうなイメージがあるが、本当のところはどうなのだろうか。
「免疫を強化するような健康食品をとり始めると、最初のうちは免疫力が少しずつ上がっていくのですが、
ある程度まで上がるとフィードバックがかかって、かえって免疫力が下がってしまうことがあります。
このため、たくさん撮りすぎると逆効果になる心配があります。
β-グルカンの摂取量については、人によって反応性に違いがあると考えられますし、それぞれの製品の品質的な違いなどもあります。
ですから、とりあえずはパッケージに書かれている量などを参考に、自分にあった量を決めることが大切です。
もし私がとるとしたら、1日1000rを超えない量にとどめるでしょう」
また、毎日欠かさずとるよりは、適度にあいだをあけて摂取するほうが、かえって免疫力をよい状態に維持できる可能性が大きいという。
「同じ有効成分の健康食品を長期間とり続けると、体がその成分に慣れてしまい、十分な効果が得られなくなるケースがよくあるので、
1年も2年も同じものを続けるより、ほかの種類の健康食品に切り替えたほうが高い効果を得られるような気がしています。
たとえば一年間アガリクスを続けたら、次はメシマコブに変えてみるなど、目先を変えてみるとよいでしょう。」
活性酸素のダメージから体を守る抗酸化食品の摂取も効果的
がんが発生するメカニズムのなかでカギとなっているのが活性酸素だ。
活性酸素は細胞を変質させたり、遺伝子を攻撃したりして、突然変異を起こすだけでなく、がん細胞が増殖するメカニズムにも関与している。このため、
がんの予防にも再発よぼうにも、活性酸素を消去する抗酸化物質を摂取することが必要不可欠なのだ。
さらに、活性酸素はがん治療時の副作用を引き起こす原因にもなる。
抗がん剤や放射線の投与、手術を受けると、がん患者の肉体には大量の活性酸素が発生する。
この活性酸素が体内のさまざまな場所で悪さをすることが、副作用の一因になると考えられているのだ。
「抗がん剤治療や放射線治療の前に、あらかじめ抗酸化食品を摂っておくと、副作用を軽減できることがわかっています」
代表的な抗酸化物質にはビタミンC・Eをはじめ、β-カロテンなどのカロチノイド類やカテキンなどのフェノール類がある。
「抗酸化物質は種類によって働く場所が異なります。
それぞれ互いに協力し合いながら、体内のいたるところに発生する活性酸素と闘い、効率よく消去しているので、できるだけ多種類の抗酸化物質を摂取したいものです。
野菜や果物をたっぷり食べることである程度摂取できますが、より積極的に活性酸素を消去するには、ビタミン剤やコエンザイムQ10などのサプリメントをとり入れるとよいでしょう。
ここでは活性酸素を悪者として話していますが、一方でがん細胞を殺すとき、活性酸素を利用することもあるので、うまくバランスをとる必要があるでしょうね。」
がんになっていろいろな努力を重ねても、結局再発してしまう人もいるだろう。
「いざ再発したと言われたら、どんな患者さんでも大きなショックを受けることでしょう。
けれども、再発したらまた治療を受ければよいのです。
不測の事態が起こったらすぐに治療を開始するため、いかなるときでも免疫力を高いレベルに維持しておくこと。
これががんに勝つためのカギといえるでしょう」
遺伝子栄養とがん発生のメカニズム
食品の抗がん効果を考えるI
月刊がん 「もっといい日」 シリーズ「食品の抗がん効果を考える」I
遺伝子栄養とがん発生のメカニズム その3
がん細胞が際限なく増殖し続けるのは、細胞が自ら死ぬ「アポトーシス」というシステムが正常に働かなくなることが一因といわれる。
逆にアポトーシスをうまく誘導できれば、がん細胞を死に導くことができるわけだ。
最近はアポトーシスの研究が進み、遺伝子レベルでの複雑なメカニズムが解明されつつあり、フラボノイドなどの食品成分にアポトーシス誘導効果があることもわかってきた。
今回はアポトーシスのメカニズムとアポトーシス誘導効果のある食品成分について、医学博士の小松靖弘博士に伺った。
アポトーシスのしくみが狂うと がん細胞は増殖し続ける
正常な細胞には寿命があるが、それ以前に異常が現われたり不要になったときには、生体の排除機能により排除されるか、自ら死ぬように仕向けられている。
これを自ら死ぬ行為、「アポトーシス」という。
たとえば、母親の胎内で羊水に浮かんでいる胎児は手足に水かきがあるが、それを構成している細胞は、胎児がこの世に生を受けるまでには消え去っている。
また、水中で生活しているオタマジャクシには尻尾があるが、成長してカエルになると尻尾はあとかたもなく消えている。
このように、不要な細胞や危険な細胞を排除して個体を成長、維持するためになくてはならない仕組みが、アポトーシスなのだ。
ところが、細胞ががん化するとアポトーシスのシステムも狂ってしまい、がん細胞は増殖し続けてしまうのだ。
近年、アポトーシスに関する研究は世界中で行われており、その複雑なしくみが明らかになりつつある。
アポトーシスのカギを握っているのが、「P53」というがん抑制遺伝子だ。P53は遺伝子の状態を常に監視していて、異常を見つけるとすぐに修復するよう仕向ける。
そして、修復がうまく行かないときは、その細胞が自殺するように指令をだすのだ。
「細胞は分裂することによって増殖します。
分裂には4つの段階があり、正常に進行しているかどうかは、3つのチェックポイントでP53によって監視されています。
P53は異常を見つけると直ちに分裂を止め、その間に修復が行われます。
修復がうまく行って異常がなくなったときは細胞分裂が再開するのですが、修復不可能なときはP53が細胞を自殺へと導くのです。」(小松博士)
一方、やたらと細胞がアポトーシスを起こさないよう、P53を抑制する因子もある。さらにその因子をブロックするものもあり、細胞分裂がきちんと行われて、
必要なところで必要なときにアポトーシスが起こるよう、二重、三重以上にものぼるチェック機構が働いているのだ。
ところが、がん細胞の多くにP53の変異が認められるという。何らかの原因でP53に異変が起こると、
細胞分裂をきちんとチェックすることができなくなり、誤った遺伝情報が蓄積され、がん細胞は増殖し続けてしまう。
P53が異変を起こし、働かなくなることががん細胞増殖の原因になっているのなら、正常なP53を補えばよいのではないか。
そうした発想から、P53をがん組織に注入する治療法が試みられるようになった。 しかし、決定的な効果は出ていない。
がん抑制遺伝子はP53だけではないことや、さまざまな因子が複雑に絡み合ってがんが発生し、増殖していることが、最近の研究でようやくわかってきたところだ。
フラボノイドがアポトーシスを誘導する
食品成分にアポトーシス誘導作用を高めるものがあることが、最近の研究で次々と明らかになっている。
なかでも盛んに研究が行われているのが、カテキンやイソフラボンなどのフラボノイド類だ。
フラボノイドは植物に含まれる色素で、4000種類以上もあるといわれている。
カテキンのなかでも、エピガロカテキンガレート(EGCG)という成分にアポトーシスを誘導する働きがあることは、すでに多くの研究で証明されており、
最近ではEGCGがアポトーシスのどの過程に作用するのかを解明するための研究も行われている。
米国・クリーブランド大学で行われた研究では、EGCGをがん細胞に添加したところ、カスパーゼの活性化を促す作用が確認された。
カスパーゼとは、細胞中のタンパク質を壊して細胞を死へと導く酵素で、アポトーシスが起こると活性化される。
P53の働きを抑制する因子をブロックして、アポトーシスを誘導する方向に働くbaxという遺伝子があるが、EGCGはbaxを活性化するという報告もある。
カテキンは強力な抗酸化作用があり、遺伝子DNAの活性酸素によるダメージを抑えることが知られているが、
前回触れたように、血管新生を阻害してがんの増殖を抑える作用もある。
さらに、アポトーシスを誘導する働きもあって、がんの発生から増殖に至るまでのさまざまな過程で、がんを抑制する働きがあることがわかる。
また、大豆に含まれるイソフラボンには血管新生を抑える働きがあるほか、イソフラボンの一種であるゲニステインに、アポトーシス誘導作用があることが確認されている。
「これまでの研究報告を総合すると、フラボノイドの種類によって作用するがんの種類は異なるようです。
このため、がんを予防し増殖を抑えるには、お茶や大豆はもちろん、ほかにもいろいろな野菜や果物を食べて、
いろいろな種類のフラボノイドを幅広く摂取することが有効だと考えられます」(小松博士)
フラボノイド以外では、フコイダンやマイタケなど多糖体のアポトーシス誘導作用も研究されている。
「試験管内での実験では、アポトーシスの誘導効果が確認されているようですが、多糖体は分子量が大きいため、
摂取したときにどれだけ人体に吸収されているかについてはデータが不十分です。
多糖体は免疫賦活作用が高く、免疫レベルが上がることによってNK細胞が活性化し、
間接的にアポトーシスが起こっているという可能性のほうが高いかもしれません」(小松博士)
月刊がん 「もっといい日」 シリーズ「食品の抗がん効果を考える」H
食品の抗がん効果を考えるH
遺伝子栄養とがん発生のメカニズム その2
遺伝子レベルに働きかける食品成分を積極的に摂取することによって、がんを予防し、がんの増大を抑えること可能であることが最近の研究からわかってきた。
そうしたなか、「血管新生」というメカニズムに着目して、がんの成長や転移を食い止める治療法が注目されている。
血管新生とはがん細胞が補給路を自らつくりだすシステムだが、これを抑えることで、がん細胞を兵糧攻めにしようという考え方だ。
血管新生のメカニズムとその発生を抑制する食品成分について、医学博士の小松靖弘博士に伺った。
新しい血管をつくって成長し続けるがん細胞
がんという病気が恐ろしいのは、がん細胞が無制限に増殖して成長し、転移してほかの臓器にまでダメージを与えてしまうことだろう。
では、なぜがんは成長し続け、転移するのだろうか。 「がん細胞は一定の大きさになると新しい血管を形成します。
そこで、これをがんの血管新生といい、その血管から栄養分や酸素を取り入れ、どんどん成長していくのです。
また、もとの腫瘍から離脱したがん細胞が、新しい血管を通じてほかの臓器へ侵入し、新しいコロニーを作ることによって転移が起こります。」(小松博士)
正常な細胞は、血液を通じて酸素や栄養を補給してもらい、生命活動を行っている。
一方、がん細胞は際限なく成長し続けるために、独自のメカニズムを作り出した。それが血管新生というしくみだ。
血管新生は女性の排卵期や妊娠したときなど、外傷が治る時に起こる現象だが、がんをはじめリウマチや糖尿病性もう膜はく離、乾癬などの疾患が進行するときにも見られるという。
血管新生によってつくられる血管は、通常の血管とは構造が異なる。
通常の血管は外膜、中膜、内膜は三層構造になっており、内膜の表面は内皮細胞で覆われている。
一方、血管新生によってつくられる血管は内膜だけの薄い構造になっている。
血管新生は、実に複雑なプロセスを経て行われるのだが、簡単にまとめると、次のようなステップに分けられる。
@がん細胞が成長して一定の大きさになると、酸素が不足した状態に陥る。
すると、血管新生促進因子が最寄の血管にシグナルを送る。
A炎症細胞が血管新生の発生源に向かっていき、シグナルがさらに大きくなる。
B細胞同士を結び付けているコラーゲンを壊す、酸素の分泌が促進される。
C内皮細胞が細胞外に飛び出し、新しい毛細血管が形成される。
血管新生のメカニズムのなかで、カギとなるのがVEGF、MMP、TNF-αという3つの物質だ。
「VEGFとは、もっとも強い血管新生促進因子で、これが血管に到達すると血管の内皮細胞の増殖が始まります。
MMP(マトリックスメタルプロテアーゼ)とはタンパク質分解酵素の一種で、血管の基底膜を破壊し、細胞同士を結び付けているコラーゲン繊維を溶かしてしまう酵素です。
正常な細胞はコラーゲンによってしっかり結合されていて、新しい血管ががん細胞へ進む余地などないのですが、MMPが活性化されるとコラーゲンが分解されて隙間ができてしまうのです。
さらに、TNF-αは免疫反応性因子の一種で、血管新生を促進する働きがあると言われています。」(小松博士)
カテキンなど植物由来成分にも血管新生抑制効果が
血管新生のカギとなる物質の活性を抑えて、血管新生を抑制する方法が、新しいがん治療のアプローチとして注目されている。
栄養補給路を断って、がん細胞を兵糧攻めにしようというのだ。
VEGF、MMPをはじめとした、血管新生にかかわる因子を阻害する血管新生阻害剤の研究が、現在世界中で行われており、
治療薬の開発も進行しているが、食品成分の中にも血管新生抑制作用を持つものがある。
もっとも有名なのがサメの軟骨だ。
サメなどの軟骨に、血管新生抑制作用があることは、多くの研究者によって証明されている。
「ひとくちにサメ軟膏製品といっても、さまざまな商品があり、抽出法や精製方法が異なります。
効果を期待するなら濃縮されていて精製度が高く、活性が証明されていて、飲みやすい商品を選ぶと良いでしょう。」(小松博士)
最近では、血管新生抑制効果のある植物由来成分も見つかっている。
そのひとつが、われわれ日本人にはなじみの深い緑茶だ。
緑茶に含まれるカテキンの一種であるエピガロカテキン・ガレートという成分が、血管新生を妨げるという研究報告がある。
スウェーデンのCao博士らの研究によると、飲料として緑茶だけを与えた4匹のマウスと、水だけを与えた4匹のマウスに、
血管内皮増殖因子を用いて角膜への血管新生を誘発させたところ、緑茶を与えたマウスのグループは水を飲ませたグループより、血管増殖が35〜70%低下したという。
緑茶を与えたマウスの血漿中のエピガロカテキン・ガレート濃度は、1日に2〜3杯の緑茶を飲んでいる人と同等たったという。
また、人為的に肺がんを発生させたマウスに毎日6gのお茶を食べさせると、VEGFレベルが低く抑えられたという研究報告もある。
米国のBagchi博士らの研究では、内皮細胞のモデルに対して、クランベリー、ブルーベリーなど6種のベリー類の混合物が、血管新生抑制効果を示したと言う。
ベリー類にはアントシアニンやビタミンCが含まれているため抗酸化活性によって、活性酸素が誘導すると考えられているTNF-?の活性を抑制しているのではないかと博士らは推測している。
このほか、大豆に豊富に含まれているダイゼンイン(イソフラボンの一種)や、タマネギに含まれるケルセチンには、MMP活性阻害作用があるとする研究報告もある。
「私たちがふだん食べている食物のなかにも、血管新生抑制のメカニズムに関与する成分が含まれているので、
これらの成分が豊富な食物をふだんの食生活に取り入れていると、がん予防にも効果的です」(小松博士)
月刊がん 「もっといい日」 シリーズ「食品の抗がん効果を考える」G
食品の抗がん効果を考えるG
遺伝子栄養とがん発生のメカニズム その1
細胞のがん化は、細胞の中の遺伝子が異常をきたすことによって起こるため、“遺伝子の病気”とも言われる。
最近の研究で、遺伝子レベルのメカニズムに働きかける食品成分を摂取することによって、病気の予防や治療が可能であることがわかってきた。
この考え方を「遺伝子栄養」という。
遺伝子栄養にスポットを当てるシリーズ第1回は、がん発生のメカニズム、
遺伝子レベルでのがんの発生を抑える食品成分の概要について、医学博士の小松靖弘氏に伺った。
遺伝子の異常によってがんは発生する
がんは、細胞中の遺伝子が傷つけられて正常な細胞が変異して、細胞増殖のコントロールが効かなくなって、勝手に増え続けてしまう病気だ。
私達の体は、およそ60兆もの細胞からできており、各細胞の核の中には多くの遺伝子が存在する。
数多い遺伝子のなかには細胞の分裂増殖(がん化)を進める「がん遺伝子」とその分裂増殖を抑制する(がん化をとめる)「抑制遺伝子」とがある。
このどちらかに異常が起こると、遺伝子の情報が正確には伝えられず、細胞分裂のコントロールが効かなくなってしまう。
がん遺伝子を傷つける原因で、大きな割合を占めるのが食事と喫煙だ。
「たばこに、多くの発がん物質が入っていることは知られていますが、私達がふだん口にしている食物のなかにも、発がん物質が含まれて今ますし、
また医薬品である抗がん剤のなかにも、発がん性の見られるものがあります。
つまり、普通に生活しているだけで、発がん物質は私達の体に取り込まれてしまうわけです」(小松博士)
この、発がんのメカニズムに大きく関与しているのが活性酸素だ。
発がん物質は直接遺伝子に損傷を与えることもあるが、体に取り込まれた多くの物質、
また発がん物質などの代謝過程で発生した活性酸素が、遺伝子を傷つけているであろうと考えられている。
発がんのプロセスには大きく分けて、第一段階のイニシエーション(初期化)、第二段階のプロモーション(促進)があり、活性酸素はその両方にかかわっていると言われる。
生活習慣病や老化現象を引き起こすと言われる活性酸素は、細胞を酸化して形態的変化を生じさせる。
結果、障害を受けやすくなり、組織障害につながることが考えられる。また、その酸化反応のなかで遺伝子を直接攻撃して傷つけてしまうことがあるのだ。
けれども、私達の体には遺伝子の修復システムが備わっていて、何らかの原因によって遺伝子が傷ついても、すばやく修復が行われる。
ところが、遺伝子が絶えず傷つけられたり、修復機能が低下したりして修復が間に合わなくなると、突然変異を起こしてしまう。
これが発がんの第一段階だ。 第二段階は、突然変異を起こした細胞に、さらにがん化を促進する因子が加わることで、がん細胞が出現するステップだ。
この段階にも遺伝子を傷つける活性酸素が深く関与しているという。
たとえがん細胞が発生しても、私達の体には、がん細胞の成長を抑えるシステムがあるのだが、
それをかいくぐってがん細胞が成長すると腫瘍が形成されてしまうわけだ。
このように、がん細胞ができるまでには、いくつもの段階があり、
それぞれに発がんを抑えるシステムが備わっている。
遺伝子レベルでがんを予防する食品成分
「たとえ遺伝子が傷つけられたとしても、遺伝子を修復し発がんを抑制する力を高めておけば、がんになるリスクを抑えることができます。
遺伝子レベルのメカニズムに働きかける食品成分を摂取することによって、病気を予防したり治療したりする
(遺伝子栄養という考え方が、がん予防やがん治療においても注目されています。)」(小松博士)
まず、発がんに大きな影響を与える活性酸素のダメージを防ぐには、
ビタミン類、カロチノイド、ポリフェノールなど、抗酸化物質を豊富に含む食物を積極的に摂ることが大切だ。
「最近の野菜の多くは、昔にくらべ抗酸化物質の含有量が減っているような気がしますね。
太陽をいっぱいに浴びて昔ながらの方法でつくられた駿の野菜をたっぷり食べるのが理想ですが、それが無理ならサプリメントで補うことも必要です。
遺伝子を効率よく修復するためには、遺伝子の材料となる成分を食品やサプリメントで摂取するのもよいでしょう。
遺伝子は核酸という物質からできていて、核酸の豊富な食品には、サケなどの白子、子牛の胸腺、ビール酵母などがあります。」(小松博士)
また、遺伝子が損傷を受け、細胞分裂のコントロールがきかなくなることが発がんにつながるが、ビタミンD3はこの無秩序な細胞分裂を止める働きがあることがわかっている。
ビタミンD3の前駆体であるエルコ゜ステロールという成分は、天日干しのシイタケなどに含まれる。
ところで、慢性胃炎の人が胃がんになりやすく、慢性肝炎の人が肝臓がんになりやすいことからもわかるように、がんは炎症と深いかかわりがある。
炎症反応はCOX-1(コックス-1)、COX-2(コックス-2)というふたつの酵素によってつくられる、生理活性物質の関与が知られており、
このうちCOX-2は炎症反応を介して、乳がんや大腸がんなどの発生にかかわっていることがわかっている。
このため、COX-2の活性発現が抑制できれば、がん発生を抑えられる可能性があるわけだが、
最近の研究で、お茶の成分であるエピガロカテキンが、COX-2を選択的に阻害し、がんを抑制することが明らかになっている。
高麗人参にも、同様の効果が期待できるという。
異常な細胞が生じた時の、生体の対処の方法に「アポトーシス(細胞の自己死)」というものがある。
正常な細胞の寿命は遺伝子にプログラムされ、寿命が来て、不要になるとシステムを働かせて自ら消滅する。
これを「アポトーシス(細胞の自己死)」という。ところが、がん細胞はこのシステムがうまく働かなくなり、際限なく増殖を続けてしまう。
このアポトーシスを誘導する働きのある食品として、マイタケエキスなどが報告されている。
また、細胞が増殖するには栄養が必要だが、がん細胞は際限なく増殖し続けるために、大量の栄養を必要とする。
大量の栄養を取り込むために、がん細胞は自らシグナルを出し、近くの血管と自分を結ぶ新しい血管を造り出す。これを「血管新生」という。
血管新生が起こると、がん細胞はたっぷり栄養を補給してどんどんおおきくなる。
さらに、周りの組織や細胞は栄養を横取りされてしまうため、本来の機能を失ってしまう。
このメカニズムを逆手に取り、血管新生を抑制することによって、がんの増大を抑える方法が、がん治療における新しいアプローチとして注目されている。
現在、血管新生を抑制することが知られている食品にはサメ軟骨がある。
このように、遺伝子レベルに働きかける食品成分を積極的に摂取することによって、
がんを予防し、発生してしまったがんの増大を抑えることも、十分に可能であると考えられている
月刊がん 「もっといい日」 シリーズ「食品の抗がん効果を考える」@
「免疫とキノコの密接な関係」
食品の抗がん効果を考える@
がんという病気のやっかいなところは、最初の治療で摘出しても、微小ながん細胞がどこかに潜んでいて何年もたってから、「再発」がんがみつかる場合があることだ。
最初の治療を受けたあとは、再発予防、進行抑制に努める不断の努力がかかせない。
食品には、日常の食品以外に、抗がん効果が注目される食品がある。日本では、薬品と区別するため法律上、健康食品とか機能性食品といった分類をされている。
本シリーズでは、臨床現場で使われている健康食品を中心に、食品の効能、抗がん剤治療と併用して治療効果を高める使い方、症状の改善など、生活の質の改善に役立つ食品、など具体的な情報を提供していきたい。
免疫力という潜在的な力と食品との関係を考える第1回は、健康食品に多いキノコ類に商店をあわせて小松靖弘氏にキノコと免疫の関係を伺った。
キノコもカビも同じ真菌の仲間!?
昔から“シイタケを食べるとガンになりにくい”などとよく言われていました。
最近では様々なキノコについて、抗がん作用や免疫賦活作用が研究されています。
科学的なエビデンスについても裏づけがとれてきているようです。
どのキノコがいいのか、どんなものがいいのかと疑問に思ったときには、やはり臨床的にきちんととられたデータで判断したいものです。
ただ、漢方薬と同様に一例報告も軽視できない。
人の体というのは千差万別で、こちらの人には効いても、こちらの人には効かないということは必ずあり、数値的に同じような結果を求めても、それもまた難しい問題なのです。
そもそもキノコとは真菌のひとつですが、真菌は大きく五つに分類されていて、担子真菌と子嚢菌、カビなどを含む不完全菌などがあります。
キノコ類はすべて担子菌類に分類され、子嚢菌には冬虫花草があり、ビール酵母、パン酵母、水虫の原因となるロンジダなどのカビの仲間の種々の菌が分類されます。
またお酒や味噌などを作る酵母菌類も真菌の仲間です。つまり、キノコ類もカビ類も酵母菌も水虫菌も同じ真菌類、同じ仲間なのです。
キノコは木につく菌で、木を腐らせて土に返す役割を果たしています。
生態系がうまく循環するように働いている菌ですが、結局は真菌の一種。
人間の体にとってはカビや水虫菌と同様に「異物」です。
体は、異物が入ってくると、抗体が働き、その異物を排除しようとします。
このときコクロアージやリンパ球などの免疫担当細胞が活発に働き出し免疫力がいつもより強く働くわけです。
キノコが異物といて体内に入ってくることによって免疫機能が活性化される。
これが、キノコが体内で免疫力を高めるメカニズムなのです。
もちろん、キノコは多種の人体に有効な成分を含んでいることが明らかにされており、少なからず体にはいい影響を与えるはずです。
しかしのおそらく、キノコのよさは“どの成分がいい”というように簡単に特定されるものではないと思います。
真菌類の一種であることから、体内に取り入れると身体の抗体が刺激を受けて免疫力が活性化するというのが、一番のよさになるといえるでしょう。
異物のキノコに抗体反応
たとえば現代の医療では、発生したがんの細胞を取り出して培養し、それを利用することで、その人の免疫力を賦活させるという治療法もあります。
その方法で増やしたリンパ球なら、ターゲットとなるがん細胞を知っているので、体に戻した際にも、目標であるがん細胞をピンポイントで攻めることかできます。
また、T細胞などの免疫活性物質も誘導されて活動が活発になるので、効果的にがん細胞がやっつけられる。これが、いわゆる活性化自己リンパ球細胞移入によるがん治療です。
がん細胞も真菌も体にとって異物という点では同様で、体は同じ反応を示すはずです。
がんは、異型細胞の発生に起因していますから、これを防げばがんも防げるわけです。
細胞社会学という研究分野があって、人間の体内でも細胞集団がひとつの社会を形成しているという考え方です。
その集団の中で“ヘンな細胞”(異型細胞)が生じるとその集団から物理的に排除されてしまう可能性もあるのです。
また人体では、明らかに異型細胞ができるとNK細胞など免疫細胞の働きにより、すぐにつぶされます。
異型細胞があまり目立たない場合は、消されることなくうまく生き残ってしまいます。
その結果、その異型細胞は増えて塊になり、がん細胞などに変化していく。
がんについては、それが目に見えないところで起こっているから怖いのです。
知らない間にがんは体内で育ってしまって、治療が困難になります。
できるだけ早くそれを発見し、できるだけ早く対処しなければいけません。
免疫学的反応によってがん細胞を殺すためにはがん細胞一個に対してリンパ球は10も20もかかります。
がん細胞が少なければ少ないほど、どんな治療でも有効に働くと思います。
私が知っている症例では、実際にキノコのエキスを飲むことで免疫機能を高めながら西洋学的治療に挑み、がんを克服した方が多くおられます。
手術や抗がん剤や放射線といった治療が前提であり、これを否定はしません。
ただ、キノコのエキスを飲むなどして免疫を高めて治療すれば、なおさらいいと考えています。
多種類のキノコのエキスを混合して実際に腫瘍マーカーが消滅した例も
いくらキノコがいいといってもそんなに大量に食べられるものではありません。
キノコから有効成分を抽出したエキスを飲むのがいいと思います。
さらに、どのキノコが合うかについては、個人差があると思います。ですから私は様々なキノコのエキスを混合したものを勧めます。
人間の体はそれぞれ免疫応答性に違いがあります。食べ物でも相性があるように、どのキノコが効くかも人によって違うはずです。
ただ、それを調べるには時間がかかります。今すぐ的確な情報を必要としているがん患者に試行錯誤している余裕はないので、多種類のエキスを飲む。
とにかく早めの対処が必要ですからね。 実際にキノコの健康食品を飲んで、腫瘍マーカーがなくなったという人はいます。
現代の医療制度で医薬品と認められているものだけしか効かないということはありません。キノコのエキスも、私はがん治療における利用価値が十分あると思います。
術後のがん治療は犯人探しのようなもの。どこにあるか分からないものを探しだしてやっつけるということです。
そうした中で、抗がん剤は無差別爆弾のような要素があります。つまり犯人以外もやられるということ。
がんだけでなく体のあらゆる細胞がダメージを受けるので、体力は著しく減退し、食欲も失せます。病気に打ち勝つ前に、体がどんどん弱っていくのです。
しかし、現在市販されているキノコのエキスを飲んでいる人の多くが、抗がん剤の副作用が緩和されるといいます。
副作用が抑えられれば、それにより食欲も出るし、体力も回復できます。がんに打ち勝つための体を作る基礎ともなります。
キノコに免疫力向上作用があるということは、様々なデータにも裏づけられている事実です。その詳細については次号で。
より多くの人が自分に合うキノコのエキスを見つけて、自分に合った方法でがんを治療していく、あるいはがんを防いでいけれはいいと思います。
月刊がん 「もっといい日」 シリーズ「食品の抗がん効果を考える」A
「腸管粘膜は免疫細胞の砦、食べ物から免疫力を活性化する」
食品の抗がん効果を考えるA
初発治療後、「再発」「転移」に対する2次予防の観点から、健康食品に対する関心は非常に高い。
健康食品のなかには、成分がもつ薬効などの特性を特化し開発された食品があり、実際に臨床現場でも使われている。
食品として分類されているため、食品の効能や、抗がん剤治療などと併用した場合の効果については、なかなか知られていない。
食品として経口摂取した場合、どのような効果が現われるのか、前回に続いて小松靖弘氏に免疫活性のメカニズムについてのお話を伺った。
免疫活性は腸管粘膜で起こる
前回は健康食品の中でも種類が多いキノコ類を取り上げました。
「食べ物は人間にとって異物である」というところから、真菌の仲間であるキノコ類が抗原といて作用して、免疫細胞を活性化させるのだということを、お話しました。
さて、食べ物は異物であるというと、およそあらゆる食べ物には免疫を高める働きがあるということになります。
そこで今回は、食べ物で免疫が高まるとはどういうことか、食べ物が分解・吸収されるうえで重要な消化管からお話を始めたいと思います。
20世紀後半に腸管(小腸)にはすばらしい機能があることがわかってきました。ひとつは口から入ってきた食べ物の刺激に対し、消化液の分泌を促すホルモンを分泌すること。
このホルモンの働きで、胃腸や肝臓などの消化器官でアミノ酸やグルコース、脂肪など、吸収しやすい形に分解された食べ物は、抗原性を失って小腸で消化液と混ざり合い吸収されていきます。
また、ヒトの腸管を押し広げるとおよそテニスコート一面分の広さがあるといわれますが、その広大な腸管粘膜の下には、実は人間の体がもっているリンパ球の60%近くがあるといわれます。
とくに腸管粘膜のところどころにパイエル板と呼ばれる部分があり、リンパ球などの免疫細胞が集まっていて、さまざまな化学成分に対する受容体(レセプター)も存在しています。
レセプターは食べ物の成分の一部と結びついて、免疫細胞に取り込みます。
花びらのような形から名づけられたハナビラタケや、スーパーマーケットなどでも見かけるヤマブシタケというキノコには、
大量のβ-グルカンが含まれていることが研究によって報告され、抗腫瘍活性があることも確かめられています。
どうしてキノコ類が免疫細胞を活性化するかというと、実は、このレセプターのなかにキノコ類に多く含まれるβ-グルカンのレセプターがあるからです。
キノコに含まれる?-グルカンはこのレセプターと結びつくことによって、免疫細胞を活性化させているのです。
免疫細胞のレセプターは、人間が歴史的に積み重ねてきた食経験を通して遺伝的に増えてきたと推測され、
β-グルカン以外にもいろいろな食べ物の成分に関連したレセプターがあり、その数は約一億個あると言われています。
食べないと免疫は低下する
ところで、消化管には腸内細菌をはじめとする細菌が数限りなく生存しています。
腸内細菌は体内で抗原を吐き散らすため、ヒトにとって一種の免疫刺激装置となっています。
また、食べ物が消化・吸収され腸管内では腸内細菌も元気づきます。
食べ物を食べるという当たり前の行為そのものが、人間の免疫力を高めているわけです。
逆に、口から食べ物を摂取して消化管で吸収するということがなくなると、人間はどんどん体力が落ちて、免疫力も低下していきます。
点滴で栄養を摂る生活が続くと、日和見感染症が起こりやすくなるのはそのためです。
また消化管に存在するさまざまな菌の中でも大腸菌などは、リポポリサッカライド(糖脂質の一種)と呼ばれる菌体内毒素を持っています。
このリポポリサッカライドには、βーグルカンも含まれていて、抗腫瘍活性が高いことが確認されています。
腸内細菌を多くもっている消化管は、いろいろな意味で免疫の要となっていると言うことができます。
多種の食べあわせでパワーアップ
免疫を高めるのはキノコばかりではありません。
漢方生薬もそのひとつです。なかでもトウキ、オオギ、ニンジン(高麗人参)などの生薬には、免疫賦活作用があることが知られています。
これらを含む十全大補湯、補中益気湯、人参養栄湯などの漢方薬は補剤と呼ばれ、体の抵抗力が低下しているときに使われます。
生薬には、植物に多い多糖体に由来する成分や、ステロイドのような成分、不飽和脂肪酸などが含まれており、それらが腸管に至り免疫を活性化することがわかっています。
漢方薬には、免疫賦活作用以外に気力やエネルギーを高める効果もあり、用いると食欲も出るため、結果的に免疫力が高まります。
臨床現場では、がんの化学療法、放射線療法と併用し、患者のQOL改善、治療の副作用軽減などで効果を上げていることが報告されています。
手術後はとくに食事もできないことがありますから食べないことだけで免疫力が低下します。
そこで術前に免疫力を高める漢方薬や食品を摂ると効果的です。
術後一時的に使用をやめても、免疫力は急には低下しないので、免疫力を維持できます。
私は、一週間くらい前から用いることを勧めています。
多種類の食品を食べ合わせて免疫力を高めよう
さて、健康食品には、β-グルカンを主成分にしたもの以外に、多糖体を主成分にしたもの、サメ軟骨エキスやプロポリスなどさまざまなものがあります。
これらの成分が免疫細胞を活性化するのは、やはり腸管粘膜にこれらの成分をキャッチする受容体が存在するからです。
健康食品は、腸管粘膜をベースにした消化吸収と免疫活性化の両面から効果を発揮するよう設計された食品であるこてがわかっていただけたでしょうか。
現在では、各食品がもつ免疫活性力についての研究が進み、臨床結果など科学的な裏付けも出ています。
β-グルカンなど有用成分の含有量を明記し、由来を明確にしているものを選ぶことです。
人によって必ず向き・不向きがあり効果にも違いが出てきますから、ひとつのものに頼らず、いろいろなものを組み合わせて摂ることが必要です。
さしあたりハナビラタケ、ヤマブシタケ、シイタケ、マイタケ、エノキタケ、シメジなとたくさんの種類のキノコをベースにしたキノコ鍋をしてみてはいかかでしょうか。
最期にご飯を入れ雑炊にし、スープを全部飲めば、キノコの多糖体をタップリ摂ることができます。
家庭でできる安くていしい究極の健康食品ではないかと思います。
月刊がん 「もっといい日」 シリーズ「食品の抗がん効果を考える」B
「薬事法により効能効果を表示できない健康食品、消費者のために含有量の表示を望む」
食品の抗がん効果を考えるB
抗がん効果が高いとされる健康食品が数多く商品化され、さまざまな商品を簡単に手に入れることができる時代になった。
選択の幅は広がったが、星の数ほどある商品の中から自分に合った効果の高いものを選ぶことは簡単ではない。私たちは健康食品をどう選べばよいのだろうか。
漢方薬や健康食品を長年研究してきた小松靖弘氏に、健康食品を選ぶポイントや有効活用するためのコツなどを伺った。
健康食品の良し悪しを見分けるには?
がんによいとされる健康食品は数多く出回っているが、どの商品がどういう症状に、どのくらい効くのかわかりにくいと感じている人は多いだろう。
日本には薬事法という法律があり、「食品」のカテゴリーに入る健康食品は「医薬品」と異なり、効能効果が証明されている場合でもそれを表示することができない。
反対に、効能効果がはっきりしていないものでも商品化できてしまうため、玉石混淆となりやすいのだ。私たちは何を基準に健康食品を選べばよいのだろうか。
「健康食品は高ければよいものだと思いがちですが、価格が高くてもそれほど品質が良くないものもあれば、良心的な価格で品質が優れているものもあります。
また、有名企業が販売しているからと言って、必ずしも良い商品とは限りません。一つの判断基準となるのは含有量です。
アガリクスを例にとると、含有量がきちんと表示されていて、数字の高いものはよい商品だと言えるでしょう。
ただし、含有量をきちんと表示している商品は少ないのが現状です」
アガリクスの場合、有効成分としてβーグルカン量が表示されていることが多い。
βーグルカンとはキノコに含まれる有効成分だが、酵母にも含まれているため、ビール酵母などを含む製品では、βーグルカン量の値が高くなってしまう。
「もちろんビール酵母も栄養価の高い食品ですが、消費者はβーグルカン量が高いとアガリクスがたくさん含まれていると勘違いしてしまいます。
こういう商品は本来なら、アガリクス由来のβーグルカン量とビール酵母由来のβーグルカン量を別々に表示すべきなのです。
また『βーグルカンの吸収率がよい』と謳っている商品もありますが、βーグルカンを経口投与してきちんと吸収率を測定した論文やデータなど、私は一度も見たことがありません」
このように、現状では商品表示などの情報から健康食品の良し悪しを見分けるのは難しいと言える。
健康食品を選ぶ判断基準として、口コミも一つの選択肢になると小松氏は言う。
身近な人が実際に試してみてよかったというものから、自分に合ったものを見つけていけばよいのだ。
もちろん、薬のように即効性があるわけではないから、はじめの1カ月ほどはじっくりと試す必要がある。
それで以前より調子がよくなったという実感があったら続ければよいし、効果を感じられないときは別のものを試せばよい。
そのほか、少しでも不安や疑問を感じたら、直接メーカーや販売元に問い合わせることも大切だという。
誠実に対応してくれないような会社はもちろん、きちんとしたデータもないのにあれに効く、
これに効くと説明するような会社や、まとめ買いを強くすすめる会社も要注意だ。
多種類の食品を配合することで理想的な健康食品が生まれる
市場に出回っている健康食品を見ると、一つの食品や成分だけに特化したものが多いが、これは食品としてあるべき姿ではないと小松氏は言う。
「一つのものだけを摂り続けるのは、医薬品的な発想なんですね。
私たちは毎日いろいろなものを食べてこそ健康でいられるわけで、一つの食品ばかり食べ続けたら、それは偏食ということになってしまいます。
それに、私たちの体は個人差があり、どの健康食品が合うかも人によって異なります。
がんの種類や状態によっても反応性は変わるでしょう。
どれが一番その人に合うか、よく効くかを調べるには時間がかかるので、今すぐ確かな効き目がほしいという人は、
なるべくいろいろな種類の食品が配合されたものを摂取するのが合理的ではないかと思うのです。」
このような考えから、小松氏は独自にある健康食品を試作したという。
約30種類ものキノコのエキスを配合し、さらに抗がん効果を持つ成分を含有する食品を数種類加えたものだ。
現在、がんで悩む知人などに試してもらっているが、よい結果が得られているという。
「子宮がんが他臓器に転移してしまい、放射線治療を受けることが決まった方に、治療開始の1カ月ほど前からこの食品を摂っていただいたところ、
無事に治療を終え、今は元気に過ごしているそうです。この方は、治療前に担当の医者から副作用が強く出るかもしれないと説明されて、
覚悟して治療を受けたそうですが、拍子抜けするほど副作用もなかったと喜んでおられました。
がんが進行して腹膜転移まで進んでしまった人にも試していただいたのですが、その方はキノコを摂取したことで免疫力が回復したのでしょう。
その後の抗がん剤治療に耐えて元気になったそうです。」
健康食品の摂取はあくまでもがん治療との併用が基本
健康食品はあくまでも食品だから、それだけでがんを治そうと考えるのはまちがいだと小松氏は言う。
まれに、他に何の治療もしていないのに健康食品だけで治ってしまったという人もいるが、それはごく限られた幸運な人だけなのだ。
「クレスチンのように、キノコを原料にした抗がん剤もあるくらいですし、最近ではさまざまな健康食品の抗がん作用や免疫賦活作用が研究され、
その効果が確認されたものもありますが、健康食品だけでがんが治ったという例はめったにありません。
やはり、基本は抗がん剤や手術などの治療であり、治療によって低下しがちな免疫力を押し上げる目的で、
あるいは抗がん剤の副作用を軽くする目的で健康食品を併用する。これがもっとも合理的で、効果が期待できる方法だと思います」
月刊がん 「もっといい日」 シリーズ「食品の抗がん効果を考える」C
「がん治療時の副作用緩和に健康食品が役立つメカニズム」
食品の抗がん効果を考えるC
健康食品には、がん治療時に起きる副作用症状を軽減するなどの点で効果が高いものがあることは広く知られるようになっている。
ところで、なぜそのような効果があらわれるのだろうか?漢方薬や健康食品の研究開発を長年手がけてきた小松靖弘氏に、
がん治療時になぜ副作用は起きるのか、健康食品や漢方薬が副作用の症状緩和にどうかかわっているのかなどについて伺った。
活性酸素の大量発生が、がん治療時の副作用に関与が考えられる。
多くのがん患者が治療中またはその後に遭遇するのが副作用だ。
食欲や体力の低下、吐き気、倦怠感など種々の症状ががん患者を悩ませる。
これらの副作用はなぜ起こるのだろうか?抗がん剤の性格から、それらの強い殺細胞作用はよく知られる。
がん細胞に特異性の高い抗がん剤が開発されてはいるが、それでも、正常細胞も殺されてしまう。
「抗がん剤を投与したり放射線を照射したりすると、患者さんの体の中には大量の活性酸素が発生します。
この活性酸素が体内のさまざまな場所で悪さをすることが、副作用の一因にもなっているのではと考えられます」
活性酸素とは人間の体内で絶えず発生している毒性の強い物質だが、生命維持には必要不可欠でもある。
生体の処理能力を超える過剰の活性酸素が体の組織や細胞を酸化して、ダメージを与えるのだ。
食物でも薬物でも、体内に入ったものはすべて種々のルートで代謝される。
体に有害、不必要な物は肝臓で解毒処理をして、尿や胆汁酸と共に、体外に排出される。
この一連の代謝の過程でも、必ず活性酸素が発生する。
「特に、抗がん剤が体内で代謝されるときには大量の活性酸素が発生すると考えられますし、
放射線治療などによる細胞破壊で炎症反応が起こった部位でも、活性酸素が大量に発生します。
また、抗がん剤治療によってがん細胞が壊れると、細胞の中の酵素が外に出て、まわりの正常な組織を攻撃して、
それを修復するために体内の白血球が集まって炎症反応が起こるので、ここでも大量の活性酸素が発生します。
これが、体のあちこちに障害を起こす原因の一つとなると考えられるのです。」
さまざなま成分が有効に働くことによって副作用を軽減する
がん患者に用いられる漢方薬は、「十全大補湯」や「補中益気湯」など、長期間飲み続けることで、体力増強、食欲増進をしてくれる補剤が主流だ。
「漢方薬ががん治療時の副作用の軽減、患者さんの全身状態の改善を促すらしいということは、20年以上前からすでに一部の医師や研究者に知られていました。
そこで、私たちの研究グループは動物実験で、十全大補湯が抗がん剤による副作用を抑制するかどうかを検証したのです。
シスプラチンという抗がん剤は、副作用として腎臓に障害を与えるケースが多いことが知られていますが、
マウスにシスプラチンを与える1時間ほど前に、十全大補湯を与えておいたところ、十全大補湯を与えなかったマウスと比較して、腎臓の障害がかなり低く抑えられたのです。
ところが、シスプラチン投与の後で十全大補湯を与えても、ほとんど効果はありませんでした。
これは、あらかじめ体に吸収されていた十全大補湯の成分が、抗がん剤によって発生した活性酸素を除去したり、
腎臓細胞内でシスプラチンの白金と融合して障害を与えないようにしたことを示しています。
それでも、十全大補湯によって、抗がん剤の作用が低下するようなことはありませんでした」
また、活性酸素ががん細胞の悪性化に関係すると言われていて、その検証のために実験が行われている。
マウスの背中に悪性度の低いがんを植えつける実験で、このがんを植えつけただけでは、
拒絶されるが、背中の別の部位にわざと炎症を起こしてやると、がんが悪性化し、定着した。
これは、炎症を起こした部位から活性酸素が発生して、がんを悪性化させたためと考えられる。
がんの悪化には活性酸素の関与が示唆される。この実験で、このがん細胞が移植されたマウスに十全大補湯を与えると悪化が抑制された。
「抗酸化作用の高い漢方薬を前もって摂っておくと、体のいたるところで有効成分が活性酸素を待ち伏せして除去してくれるのではないかと思います。
もちろん、活性酸素だけですぺてが説明できるわけではありません。
漢方薬は西洋医学における医薬品と違って、多くのフラボノイド化合物類、脂質類、多糖類など、実にさまざまな成分を含んでいます。
その意味ではプロポリスやフランス海岸まつエキス、各種野菜の健康食品には、ビタミンE、β−カロテン、カテキン類など、
さまざまな抗酸化作用を持つ物質が含まれているので、同じことが考えられます。
これらの成分が体のさまざまな部分で有効に働いて、活性酸素を除去したり免疫レベルを上げたりするからこそ、
漢方薬や健康食品は副作用を軽減する効果を発揮するのでしょう。」
効果やメカニズムに関するデータをきちんと提示していくことが課題
がんの初期治療を終えた患者にとって、再発の不安は大きい。
そんなとき、ふだんから抗酸化作用を持つ食品を摂取して、活性酸素を効率よく除去する態勢を整えておけば、再発のリスクを軽減することも十分可能だ。
ただし、健康食品の抗腫瘍活性は不明で、そこに効果を期待するよりも、がん治療の過程で落ちてしまった体力や免疫力の回復を図ったり、
抗がん剤と併用して副作用を軽減する目的で使うのが合理的だと小松氏は言う。
健康食品のなかにがん治療による副作用を軽減するものがあるということは、広く知られるようになってきたが、
効果やメカニズムが科学的に証明されているものはほとんどないのが現状だ。
「実際にすぐれた健康食品であるなら、どれだけの効果があるのか、どんな成分がどのようなメカニズムで作用しているのか、
抗がん剤とどのように組み合わせれば治療効果が上がるかなど、きちんと研究をして、必要としている人にわかりやすくお知らせする必要があると思います。
がんと闘っている患者さんに安心して、有効にお使いいただくためにも健康食品を売る側もしっかりしたデータをきちんと提示していくよう体制を整えていくことが今後の課題でしょう。」
以上、医学博士 小松靖弘先生 月刊がん 「もっといい日」 シリーズ 「食品の抗がん効果を考える」 連載記事より引用
etc.
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