漢方薬:五苓散(ごれいさん) 《傷寒論》
患者のタイプ:中間証(体力中程度の人)
使用目的:口渇、排尿量・回数異常があり、ときに浮腫、悪心、嘔吐、頭痛、めまい、下痢、腹痛、発熱などの症状を伴うもの。
心窩部に振水音を認めることも多い。
適応症:浮腫、ネフローゼ、尿毒症、腎炎、腎盂炎、二日酔い、乗物酔い、悪心、嘔吐、めまい、頭痛、暑気あたり、
日射病、胃下垂、偏頭痛、三叉神経痛、メニエール症候群、てんかん、胆石症、急性・慢性肝炎、結膜炎など。
構成生薬:沢瀉5.0、蒼朮・猪苓・茯苓各3.0、桂枝2.0
本方は表に邪熱があって、裏に停水のあるものを治す効があり、口渇と尿利の減少を目標にして、諸種の疾患に用いられる。
また、水逆の嘔吐も、本方の目標である。水逆の嘔吐は、口渇と尿利の減少があって、水をのむとすぐに吐出し、また水をのみ、また水を吐くというものをいう。
熱のある場合では脈が浮数となり、汗は出ない。五苓散をのむと、尿利がつき、発汗して解熱する。
水逆の嘔吐も、五苓散をのむと嘔吐がやみ、尿が出るようになる。
本方の沢瀉、猪苓、茯苓、朮は何れも体液の調整剤で、胃腸内の停水を去り、尿利をよくして浮腫を去る。
沢瀉、猪苓は口渇を治し、茯苓とともに鎮静の効があり、桂枝は表熱を去り、気の上衝を治し、他薬の尿利の効を助ける。
本方は感冒その他の熱のある病気で、口渇、尿利の減少のあるもの、
ネフローゼ、腎炎、心臓病、急性胃腸炎、陰嚢水腫、クインケの浮腫などに用いられる。
適応症
1)水湿の表証(太陽病蓄水証):悪風・微熱・尿量減少・口渇するが飲むとすぐに嘔吐するなどの症候で、舌苔は白・脈は浮滑。
2)水湿による水様物の嘔吐あるいは浮腫あるいは水様の下痢などで、尿量減少・口渇をともない、
目まい感・腹部の動悸・身体が重いなどの症状がみられることもある。舌苔は白滑あるいは白膩・脈は滑。

中医処方解説
水湿による尿量減少・口渇に対する代表処方である。
利水の茯苓・猪苓・沢瀉・白朮と、通陽の桂枝で構成されている。
「水湿」とは、水分の排泄あるいは吸収の障害による一連の症候である。
嘔吐は、主に胃の吸収障害による溜飲の存在(腹壁をたたくとジャブジャブと音を発することでわかり、
これを「振水音」という)によっておこり、胃内圧が高まると水様物を吐すのであるが、一般に悪心をともなうことが少ない。
これを「水逆」の嘔吐ともいう。水様の下痢は、腸管での吸収障害によって発生し、腹痛・裏急後重などをともなうことは少ない。
浮腫は、腎臓での排泄障害や血液量増大にともなう等張性のもの。
あるいは血管運動神経性と考えられる。この場合には動悸・目まい感・身体が重いなどの症候をともなう。
なお重要なことは口渇と尿量減少で、これは脱水によるものではなく水分の偏在と考えるとよい。
すなわち、口渇と尿量減少があるにかかわらず、胃内に溜飲がみとめられたり腸で水様のグル音が発生したりすることから、
体内には水分が過剰に存在しながら、吸収障害により有効な血中成分として機能系にとりこまれていないものと推定できる。
以上のように、同じ水湿であってもさまざまな病理変化が混在しているのである。
「蓄水証」については、ふだんから水湿の症候をもっているものが感冒に罹患し、発熱反応とともに胃腸の機能失調がおこり、
水湿の症候が表面化するものと考えられる。 淡滲利水の茯苓・白朮・沢瀉・猪苓は、いずれも利尿作用をもち、
猪苓・沢瀉・白朮は水分・Na・K・Cl・尿素などの排出を増し、尿細管の再吸収を抑制するとされている。
茯苓は鎮静作用をもち、正常の状態では余り利尿効果はない。
臨床的な観察から、白朮・茯苓などは浮腫や溜飲をのぞいたり下痢を止める効果があり、結果的に利尿を示すところから、
何らかの作用機序によって消化管や組織の過剰水分を血中にひきこみ、これを腎臓に送ることによって尿量を増大させるものと考えられる。
なお、白朮・茯苓は、栄養分をふくみ消化吸収を高める作用があるため、補脾薬として用いられ、脾虚が原因で生じる水腫・痰飲・下痢などには必ず配合される。
一方、猪苓・沢瀉は、主に尿細管での再吸収を抑制してやや積極的な利尿作用をもつが、正常な水分を排泄するほど強力な利尿剤とは認めがたい面がある。
桂枝には軽度の利尿作用があるが、主に血管を拡張して血行を促進しかつ吸収を高めることによって、利水薬の効果をつよめる(これを「通陽」と呼ぶ)。
また感冒の初期には、体表血管を拡張して発汗させ解熱する。
以上のように、本方は主として消化管や組織の余剰の水分を血中にひきこむことによって利尿し、同時に口渇・下痢・浮腫・溜飲などを緩解するものである。
それゆえ、脱水には用いるべきではない。 ただし、暑中での発汗過多や二日酔いなどでみられる軽度の脱水症状で、
はげしい口渇があり水を多量に飲むにかかわらず腹が脹って口渇が癒えない状況は、やはり吸収障害が関与しており、
本方を服用することにより水分が有効に血中に入って症状の緩解が得られるので応用するとよい。
悪風・微熱などの表証がないときには、桂枝をのぞいてよい(四苓散《明医指掌》)。
表証とともに浮腫がみられる風水証には、麻黄・石膏などを配合するほか越脾湯と併用する。
食欲不振・疲労感・元気がないなどの気虚の症候をともなうときは、白朮を増量し黄耆を加える。
冷え・寒けがつよいときには、桂枝を肉桂にかえ乾姜・附子などを配合する。あるいは真武湯・実脾飲などに変方する。

漢薬の臨床応用
急性胃腸炎・周期性嘔吐症・仮性コレラ・クインケ浮腫・寒冷じんましん・急性腎炎の初期・陰のう水腫などで、水湿を呈するもの。
あるいは肝硬変の腹水・ネフローゼ症候群・慢性腎炎などの水腫に対して補助的に用いる。
服用上の注意
1)本方は脱水には禁忌である
2)熱証を呈するものには適さない。
3)気虚・陽虚による痰飲には適切な配慮が必要である。
出典 『傷寒論』、 『金匱要略』
1)脈浮、小便不利、微熱、消渇の証。(『傷寒論』太陽病中篇)
2)中風、発熱し、解せずして煩し、表裏の証あり、水逆を発する証。(『傷寒論』太陽病中篇)
3)霍乱(吐瀉病)、頭痛、発熱し、身疼痛し、熱多くして水を飲まんと欲する証。(霍乱病篇)
気血水:水と気が主体。
六病位:少陽病。
脈・舌・脈、浮、浮滑。下苔は白滑、あるいは白賦。
勿誤薬室方函口訣
五味猪苓散と称す。後世之を省略し、五苓散と呼ぶに至れりという。(奥田謙藏)
五苓散を多数例の頭痛に適用して効果を確認したが、
慢性頭痛ということであれば症例を選ばず用いてよく、
なかでも女性に効きがよいという印象である。(矢数道明)

病名・病態・効能・効果
口渇、尿量減少するものの次の諸症:浮腫、ネフローゼ、二日酔い、急性胃腸カタル、
下痢、悪心、嘔吐、めまい、胃内停水、頭痛、尿毒症、暑気あたり、糖尿病。
漢方医学的適応病態
1)水湿野表証(太陽病蓄水証)。すなわち、悪風、微熱、尿量減少、口渇するが飲むとすぐに嘔吐するなどの症候。
2)水湿による水様物の嘔吐あるいは浮腫あるいは水様の下痢などで、尿量減少、
口渇を伴い、めまい感、腹部の動悸、身体が重いなどの症状がみられることがある。
構成生薬
沢瀉4、白朮3、茯苓3、桂皮1.5。(単位g)
中医学:利水滲湿・通陽・解表(利水して体内の湿をさばき、温めて、表を発する)。
漢方医薬学湯剤使用経験
瀧野一雄著『新撰類聚方』増補改訂版
1)感冒・流感・急性腸カタル、消化不良、コレラ・コレラ様吐瀉・小児吐乳等で発熱、下痢、嘔吐、煩渇、利尿減少。
2)胃拡張・胃アトニー・胃下垂・溜飲症・胃液分泌過多症、幽門狭窄等で口渇、嘔吐、胃部振水音、心下部がつかえ小便不利。
3)虚証の黄痘。
4)糖尿病で煩渇小便不利。
5)腎炎・ネフローゼ・膀胱炎・尿毒症・尿閉・心臓不全等で、浮腫、小便不利、煩渇、或いは発熱頭痛、脳症を伴う。
6)てんかん・メニエール氏症候群・日射病・脳水腫等でめまい、昏倒、煩渇小便不利、腹動、口からあぶくを出す等がある。
7)夜尿症で煩渇するもの、咳をすると小便が漏れる。
8)結膜炎・角膜フリクテン・角膜潰瘍・斜視などの眼病で、羞明、充血、閃視飛蚊症等があり、煩渇、小便不利。
9)禿頭・脱毛で肛門また陰部に瘡を生ずる、或いは子宮出血後に起こったもの。
注意)漢方薬「五苓散(ごれいさん)」を2週間服用しても効果に満足できない場合は、大山漢方の調合漢方薬(オーダーメイド)をお勧めします!
大山漢方堂薬局に、一度、お電話ください。0283-22-1574(大山漢方で、イゴ・不安・ナシ)

佐野厄除け大師通りの漢方専門、大山漢方堂薬局 Web-Page
へ、Go!!!

医薬品は使用上の注意をお読みいただき、正しくお使いください。
お買い求めの際には、漢方を現代病に活かす
漢方専門 大山漢方薬局に、お気軽にご相談ください。
「インターネットで見た!」
とお話ください。
(注意)
漢方専門 大山漢方堂薬局の 厳選、漢方薬、健康食品のご注文は、大山漢方薬局に、直接、お電話、FAX、E-mail
にてご用命ください。
お電話:0283-22-1574、FAX:0283-22-1607、E-mail:ohyama@poem.ocn.ne.jp
お待ち致しております。
「大山漢方堂 漢方医学と漢方健康相談」
大山漢方堂薬局の得意とする病気、大山漢方堂薬局に漢方相談のあるご病気一覧、
大山漢方堂薬局 漢方健康相談窓口、医学博士大山博行先生、医学博士小松靖弘先生のご紹介
" THE KAMPO " 漢方
漢方薬, How the Japanese Updated Traditional
Herbal Medicine
<漢方薬のご服用をお考えの皆様へのお願い!>
*漢方薬のご服用に関しましては、
「使用上の注意」をよく読み、「用法・用量」をよく守り、適切にご服用ください。
また、今回、始めて、漢方薬のご服用を希望されるお客様は、
下記、問診表に必要事項を記入して送信するか、
漢方相談お申し込みフォーム
お電話にて、直接、大山漢方薬局に、ご相談ください。
症状・体質を詳しくお伺いした上で、適切な漢方薬をアドバイスさせて頂きます。
(大山漢方薬局 / 無料漢方相談電話 0283-22-1574
/ 9:00~19:00)
<注意>
大山漢方薬局、デジタル店舗で、お取り扱いの漢方薬は、すべて「一般用医薬品」です。
以上、よろしくお願い致します。
E-mail to Dr. Ohyama Kampo Pharmacy.
漢方を現代病に活かす! 漢方専門 大山漢方薬局デジタル店舗へ!

大山漢方堂薬局 〒327-0026 栃木県佐野市金屋仲長町2432
TEL&FAX : 0283-22-1574 E-mail : ohyama@poem.ocn.ne.jp
漢方薬:五苓散(ごれいさん) 《傷寒論》
患者のタイプ:中間証(体力中程度の人)
使用目的:口渇、排尿量・回数異常があり、ときに浮腫、悪心、嘔吐、頭痛、めまい、下痢、腹痛、発熱などの症状を伴うもの。
心窩部に振水音を認めることも多い。
適応症:浮腫、ネフローゼ、尿毒症、腎炎、腎盂炎、二日酔い、乗物酔い、悪心、嘔吐、めまい、頭痛、暑気あたり、
日射病、胃下垂、偏頭痛、三叉神経痛、メニエール症候群、てんかん、胆石症、急性・慢性肝炎、結膜炎など。
構成生薬:沢瀉5.0、蒼朮・猪苓・茯苓各3.0、桂枝2.0
本方は表に邪熱があって、裏に停水のあるものを治す効があり、口渇と尿利の減少を目標にして、諸種の疾患に用いられる。
また、水逆の嘔吐も、本方の目標である。水逆の嘔吐は、口渇と尿利の減少があって、水をのむとすぐに吐出し、また水をのみ、また水を吐くというものをいう。
熱のある場合では脈が浮数となり、汗は出ない。五苓散をのむと、尿利がつき、発汗して解熱する。
水逆の嘔吐も、五苓散をのむと嘔吐がやみ、尿が出るようになる。
本方の沢瀉、猪苓、茯苓、朮は何れも体液の調整剤で、胃腸内の停水を去り、尿利をよくして浮腫を去る。
沢瀉、猪苓は口渇を治し、茯苓とともに鎮静の効があり、桂枝は表熱を去り、気の上衝を治し、他薬の尿利の効を助ける。
本方は感冒その他の熱のある病気で、口渇、尿利の減少のあるもの、
ネフローゼ、腎炎、心臓病、急性胃腸炎、陰嚢水腫、クインケの浮腫などに用いられる。
適応症
1)水湿の表証(太陽病蓄水証):悪風・微熱・尿量減少・口渇するが飲むとすぐに嘔吐するなどの症候で、舌苔は白・脈は浮滑。
2)水湿による水様物の嘔吐あるいは浮腫あるいは水様の下痢などで、尿量減少・口渇をともない、
目まい感・腹部の動悸・身体が重いなどの症状がみられることもある。舌苔は白滑あるいは白膩・脈は滑。
中医処方解説
水湿による尿量減少・口渇に対する代表処方である。
利水の茯苓・猪苓・沢瀉・白朮と、通陽の桂枝で構成されている。
「水湿」とは、水分の排泄あるいは吸収の障害による一連の症候である。
嘔吐は、主に胃の吸収障害による溜飲の存在(腹壁をたたくとジャブジャブと音を発することでわかり、
これを「振水音」という)によっておこり、胃内圧が高まると水様物を吐すのであるが、一般に悪心をともなうことが少ない。
これを「水逆」の嘔吐ともいう。水様の下痢は、腸管での吸収障害によって発生し、腹痛・裏急後重などをともなうことは少ない。
浮腫は、腎臓での排泄障害や血液量増大にともなう等張性のもの。
あるいは血管運動神経性と考えられる。この場合には動悸・目まい感・身体が重いなどの症候をともなう。
なお重要なことは口渇と尿量減少で、これは脱水によるものではなく水分の偏在と考えるとよい。
すなわち、口渇と尿量減少があるにかかわらず、胃内に溜飲がみとめられたり腸で水様のグル音が発生したりすることから、
体内には水分が過剰に存在しながら、吸収障害により有効な血中成分として機能系にとりこまれていないものと推定できる。
以上のように、同じ水湿であってもさまざまな病理変化が混在しているのである。
「蓄水証」については、ふだんから水湿の症候をもっているものが感冒に罹患し、発熱反応とともに胃腸の機能失調がおこり、
水湿の症候が表面化するものと考えられる。 淡滲利水の茯苓・白朮・沢瀉・猪苓は、いずれも利尿作用をもち、
猪苓・沢瀉・白朮は水分・Na・K・Cl・尿素などの排出を増し、尿細管の再吸収を抑制するとされている。
茯苓は鎮静作用をもち、正常の状態では余り利尿効果はない。
臨床的な観察から、白朮・茯苓などは浮腫や溜飲をのぞいたり下痢を止める効果があり、結果的に利尿を示すところから、
何らかの作用機序によって消化管や組織の過剰水分を血中にひきこみ、これを腎臓に送ることによって尿量を増大させるものと考えられる。
なお、白朮・茯苓は、栄養分をふくみ消化吸収を高める作用があるため、補脾薬として用いられ、脾虚が原因で生じる水腫・痰飲・下痢などには必ず配合される。
一方、猪苓・沢瀉は、主に尿細管での再吸収を抑制してやや積極的な利尿作用をもつが、正常な水分を排泄するほど強力な利尿剤とは認めがたい面がある。
桂枝には軽度の利尿作用があるが、主に血管を拡張して血行を促進しかつ吸収を高めることによって、利水薬の効果をつよめる(これを「通陽」と呼ぶ)。
また感冒の初期には、体表血管を拡張して発汗させ解熱する。
以上のように、本方は主として消化管や組織の余剰の水分を血中にひきこむことによって利尿し、同時に口渇・下痢・浮腫・溜飲などを緩解するものである。
それゆえ、脱水には用いるべきではない。 ただし、暑中での発汗過多や二日酔いなどでみられる軽度の脱水症状で、
はげしい口渇があり水を多量に飲むにかかわらず腹が脹って口渇が癒えない状況は、やはり吸収障害が関与しており、
本方を服用することにより水分が有効に血中に入って症状の緩解が得られるので応用するとよい。
悪風・微熱などの表証がないときには、桂枝をのぞいてよい(四苓散《明医指掌》)。
表証とともに浮腫がみられる風水証には、麻黄・石膏などを配合するほか越脾湯と併用する。
食欲不振・疲労感・元気がないなどの気虚の症候をともなうときは、白朮を増量し黄耆を加える。
冷え・寒けがつよいときには、桂枝を肉桂にかえ乾姜・附子などを配合する。あるいは真武湯・実脾飲などに変方する。
漢薬の臨床応用
急性胃腸炎・周期性嘔吐症・仮性コレラ・クインケ浮腫・寒冷じんましん・急性腎炎の初期・陰のう水腫などで、水湿を呈するもの。
あるいは肝硬変の腹水・ネフローゼ症候群・慢性腎炎などの水腫に対して補助的に用いる。
服用上の注意
1)本方は脱水には禁忌である
2)熱証を呈するものには適さない。
3)気虚・陽虚による痰飲には適切な配慮が必要である。
出典 『傷寒論』、 『金匱要略』
1)脈浮、小便不利、微熱、消渇の証。(『傷寒論』太陽病中篇)
2)中風、発熱し、解せずして煩し、表裏の証あり、水逆を発する証。(『傷寒論』太陽病中篇)
3)霍乱(吐瀉病)、頭痛、発熱し、身疼痛し、熱多くして水を飲まんと欲する証。(霍乱病篇)
気血水:水と気が主体。
六病位:少陽病。
脈・舌・脈、浮、浮滑。下苔は白滑、あるいは白賦。
勿誤薬室方函口訣
五味猪苓散と称す。後世之を省略し、五苓散と呼ぶに至れりという。(奥田謙藏)
五苓散を多数例の頭痛に適用して効果を確認したが、
慢性頭痛ということであれば症例を選ばず用いてよく、
なかでも女性に効きがよいという印象である。(矢数道明)
病名・病態・効能・効果
口渇、尿量減少するものの次の諸症:浮腫、ネフローゼ、二日酔い、急性胃腸カタル、
下痢、悪心、嘔吐、めまい、胃内停水、頭痛、尿毒症、暑気あたり、糖尿病。
漢方医学的適応病態
1)水湿野表証(太陽病蓄水証)。すなわち、悪風、微熱、尿量減少、口渇するが飲むとすぐに嘔吐するなどの症候。
2)水湿による水様物の嘔吐あるいは浮腫あるいは水様の下痢などで、尿量減少、
口渇を伴い、めまい感、腹部の動悸、身体が重いなどの症状がみられることがある。
構成生薬
沢瀉4、白朮3、茯苓3、桂皮1.5。(単位g)
中医学:利水滲湿・通陽・解表(利水して体内の湿をさばき、温めて、表を発する)。
漢方医薬学湯剤使用経験
瀧野一雄著『新撰類聚方』増補改訂版
1)感冒・流感・急性腸カタル、消化不良、コレラ・コレラ様吐瀉・小児吐乳等で発熱、下痢、嘔吐、煩渇、利尿減少。
2)胃拡張・胃アトニー・胃下垂・溜飲症・胃液分泌過多症、幽門狭窄等で口渇、嘔吐、胃部振水音、心下部がつかえ小便不利。
3)虚証の黄痘。
4)糖尿病で煩渇小便不利。
5)腎炎・ネフローゼ・膀胱炎・尿毒症・尿閉・心臓不全等で、浮腫、小便不利、煩渇、或いは発熱頭痛、脳症を伴う。
6)てんかん・メニエール氏症候群・日射病・脳水腫等でめまい、昏倒、煩渇小便不利、腹動、口からあぶくを出す等がある。
7)夜尿症で煩渇するもの、咳をすると小便が漏れる。
8)結膜炎・角膜フリクテン・角膜潰瘍・斜視などの眼病で、羞明、充血、閃視飛蚊症等があり、煩渇、小便不利。
9)禿頭・脱毛で肛門また陰部に瘡を生ずる、或いは子宮出血後に起こったもの。
注意)漢方薬「五苓散(ごれいさん)」を2週間服用しても効果に満足できない場合は、大山漢方の調合漢方薬(オーダーメイド)をお勧めします!
大山漢方堂薬局に、一度、お電話ください。0283-22-1574(大山漢方で、イゴ・不安・ナシ)
佐野厄除け大師通りの漢方専門、大山漢方堂薬局 Web-Page
へ、Go!!!

医薬品は使用上の注意をお読みいただき、正しくお使いください。
お買い求めの際には、漢方を現代病に活かす
漢方専門 大山漢方薬局に、お気軽にご相談ください。
「インターネットで見た!」
とお話ください。
(注意)
漢方専門 大山漢方堂薬局の 厳選、漢方薬、健康食品のご注文は、大山漢方薬局に、直接、お電話、FAX、E-mail
にてご用命ください。
お電話:0283-22-1574、FAX:0283-22-1607、E-mail:ohyama@poem.ocn.ne.jp
お待ち致しております。
「大山漢方堂 漢方医学と漢方健康相談」
大山漢方堂薬局の得意とする病気、大山漢方堂薬局に漢方相談のあるご病気一覧、
大山漢方堂薬局 漢方健康相談窓口、医学博士大山博行先生、医学博士小松靖弘先生のご紹介
" THE KAMPO " 漢方
漢方薬, How the Japanese Updated Traditional
Herbal Medicine
<漢方薬のご服用をお考えの皆様へのお願い!>
*漢方薬のご服用に関しましては、
「使用上の注意」をよく読み、「用法・用量」をよく守り、適切にご服用ください。
また、今回、始めて、漢方薬のご服用を希望されるお客様は、
下記、問診表に必要事項を記入して送信するか、
漢方相談お申し込みフォーム
お電話にて、直接、大山漢方薬局に、ご相談ください。
症状・体質を詳しくお伺いした上で、適切な漢方薬をアドバイスさせて頂きます。
(大山漢方薬局 / 無料漢方相談電話 0283-22-1574
/ 9:00~19:00)
<注意>
大山漢方薬局、デジタル店舗で、お取り扱いの漢方薬は、すべて「一般用医薬品」です。
以上、よろしくお願い致します。
E-mail to Dr. Ohyama Kampo Pharmacy.
漢方を現代病に活かす! 漢方専門 大山漢方薬局デジタル店舗へ!

大山漢方堂薬局 〒327-0026 栃木県佐野市金屋仲長町2432
TEL&FAX : 0283-22-1574 E-mail : ohyama@poem.ocn.ne.jp
漢方
目次
Ⅰ お年寄り介護の現場で出会う「困った」症状にこんな漢方薬が使われています。
全身状態の底上げ 疲れやすい・だるい
心の状態1 イライラ、暴力・興奮、せん妄
心の状態2 抑うつ、不安
眠りの状態 不眠・夜間の覚醒
咽喉の問題 口内炎/のどの炎症/しつこい咳
「食べる」の問題1 嚥下困難
「食べる」の問題2 しゃっくり
「食べる」の問題3 吐き気・嘔吐
「食べる」の問題4 食欲がない
「排泄」の問題1 尿の出が悪い
「排泄」の問題2 頻尿、尿失禁
「排泄」の問題3 便秘
「排泄」の問題4 術後のイレウスや腸管マヒ/下痢
むくみ
手足の感覚の問題1 しびれ、痛み、冷感
手足の感覚の問題2 筋肉の痛み、こむら返り
手足の感覚の問題3 膝・関節の痛み
皮膚の問題 かゆい
風邪 風邪をひいた/風邪をひかないために
介護のお手伝いをする漢方薬早見表
認知症ケア、がん患者のケア
Ⅱ 介護現場でよく出会う漢方薬を知ってみよう
41 補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
100 大建中湯(ダイケンチュウトウ)
68 芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)
107 牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)
54 抑肝散(ヨクカンサン)
47 釣藤散(チョウトウサン
43 六君子湯(リックンシトウ)
29 麦門冬湯(バクモンドウトウ)
14 半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)
127 麻黄附子細辛湯(マオウブシサイシントウ)
86 当帰飲子(トウキインシ)
Ⅲ 漢方薬の飲み方の工夫と副作用の知識
飲み方の工夫
副作用にいち早く気づくためのヒント
Ⅳ よくある漢方薬の疑問・質問
服用のタイミング、飲み忘れ、服用方法 Q1、Q2、Q3
併用の注意点、服薬情報 Q4、Q5、Q6
お年寄りの注意点、効果が現れるまでの期間、医療経済への影響Q7、Q8、Q9
Ⅰ お年寄り介護の現場で出会う「困った」症状にこんな漢方薬が使われています
咽喉の問題 14半夏瀉心湯など
「食べる」の問題 16半夏厚朴湯など
「排泄」の問題 107牛車腎気丸など
風邪 127麻黄附子細辛湯など
手足の感覚の問題 107牛車腎気丸など
認知症ケア
全身状態の底上げ 補剤各種
眠りの問題 137加味帰脾湯など
心の状態 54抑肝散など
むくみ 17五苓散など
かゆい 86当帰飲子など
がん患者のケア
本人や周囲に負担をかける、「こういう症状が出たら困るな」の中で、特に漢方薬がお手伝いしやすいものを選びました。
全身状態の底上げ 疲れやすい・だるい
41 補中益気湯 なんとなく元気がない、気力や生命力が低下している、といった人の全身状態の底上げに使われる代表的な漢方薬です。(ここに注意! 甘草、当帰を含んでいます)
48 十全大補湯 41補中益気湯で効果がない場合、気力だけでなく体力の低下も目立ってきた人に。(ここに注意! 甘草、当帰、桂皮を含んでいます)
108 人参養栄湯 体力消耗が目立ち、横になっている時間が多い、少し動いただけで息切れがする、咳や痰の呼吸器症状がある、という人に。(ここに注意! 甘草、当帰、桂皮を含んでいます)
・全身状態の底上げには補剤を
ここに挙げた3つの漢方薬は代表的な補剤です。補剤とは、低下した気力や体力を補う漢方薬の総称です。元気がない、全体的に生命力が低下した感じがする高齢者、体力消耗が著しい慢性疾患や術後の患者さんなどに対して、低下した心身の状態を底上げすることを目的に処方します。穂剤には免疫力回復の作用も期待されます。気力・体力が上昇すると、全身倦怠感や抑うつ気分が改善するだけでなく、食欲不振やしびれや痛み、不眠、頻尿などの諸症状までも改善することがあります。
心の状態1 イライラ、暴力・興奮、せん妄
54 抑肝散 興奮してイライラが強く、夜も眠れないような人に。認知症の周辺症状、がん末期のせん妄にも使われます。(ここに注意! 甘草、当帰を含んでいます)
15 黄連解毒湯 比較的体力がある人で、のぼせ気味でイライラのある場合に。(ここに注意! 黄ごん、山梔子を含んでいます。苦いので服用の工夫を)
47 釣藤散 イライラ・興奮などに加え、緊張が強く、めまいや慢性的な頭痛のあるような場合に。(ここに注意! 甘草、を含んでいます)
・傾眠の心配がない漢方薬
認知症の周辺症状に使われることが多い抗精神病薬は過鎮静による日中の傾眠がしばしば問題になりますが、54抑肝散などの漢方薬にはこうした副作用がほとんどありません。
*認知症の周辺症状
認知症に伴って生じる、徘徊、攻撃行動、不潔行為、幻覚、妄想などの行動や心理症状のことを指します。英語の頭文字をとって「BPSD」とも呼ばれます。
心の状態2 抑うつ、不安
54 抑肝散 不安で胸がいっぱいになり落ち着かない、胸が熱く感じるような時に。(ここに注意! 甘草、当帰を含んでいます)
41 補中益気湯 がん患者の気力低下に処方して、治療にとりくむ気力を維持し、免疫力アップをはかる、という使い方もあります。(ここに注意! 甘草、当帰を含んでいます)
12 柴胡加竜骨牡蛎湯 発作的に不安が強まり、焦りを感じたり動悸を訴えたりする場合に。(ここに注意! 黄ごん、桂皮を含んでいます)
漢方メモ1
介護は、相手の生活スタイルから人生観までをトータルに受け止めて、その人に寄り添う姿勢が求められます。漢方医学もまた、ひとりひとりの心身の状態に合わせて治療法を考えます。介護も漢方医学も、その人にぴったりのサービスを提供する、最上の「オーダーメイド」なのです。
その他の処方
体力のない高齢者やがん末期の抑うつや不安には、70香蘇散(コウソサン)や16半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)なども使われます。
眠りの問題 不眠・夜間の覚醒
137 加味帰脾湯 体力がおち、顔色が悪いような人で、眠りが浅く不安を訴えるような人に。(ここに注意!甘草当帰を含んでいます。
54 抑肝散 帰が高ぶって眠れない、一度目覚めると寝つけないときなどに。頓服で用いられることもあります。(ここに注意!甘草、当帰を含んでいます。)
103 酸棗仁湯 疲れきってねむれないような人に(ここに注意!甘草を含んでいます
その他の処方
この他、心を落ち着かせる柴胡を含む漢方薬(柴胡剤)も熟眠感を増す作用が期待されます。不眠に使われる柴胡剤には、11 柴胡桂枝乾姜湯(サイコケイシカンキョウトウ)、8 大柴胡湯(ダイサイコトウ)などがあります。
咽喉の問題 口内炎/のどの炎症/しつこい咳
14 半夏瀉心湯 口内炎に 口内炎には第一に選択すべき漢方薬。溶かした薬液を口に含んでゆっくり服用します(ここに注意!甘草、黄ごんを含んでいます)
138 桔梗湯 のどの炎症、腫れ、痛みに 咽咽部の痛みや炎症に。溶かした薬液でのどをすすぐようにしながら服用します。冷やして服用してもいいでしょう。(ここに注意!甘草を含んでいます。桔梗は多飲で悪心をおこすことがあります。
29 麦門冬湯 しつこい咳に 感染症によるせきではなく、乾いた痰のない咳が長引き、顔が赤くなるほど咳き込むようなときに(ここに注意! 甘草を含んでいます)
ほとんどの漢方薬エキス製剤はお湯で溶かして温かいまま飲むのに適しているけれど、桔梗湯のように冷やした方がいい漢方薬もあるんだね!
黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)も、エキス剤を溶かして服用する場合には冷まして飲むといいよ。
「食べる」の問題1 嚥下困難
16 半夏厚朴湯 のどの違和感があって「のどになにかいる」という訴えがある場合に用いられます。のどが狭い、食道が狭い、何となく息苦しくてものが飲み込めない、というときに。
116 茯苓飲合半夏厚朴湯 のどの違和感など、上記の症状に加えて、吐き気や胸焼けなど消化器症状を伴う場合に。
その他の処方
のどの渇きが強く飲み込めない時には白虎加人参湯(ビャッコカニンジントウ)、乾いた咳が多く出る時は 29麦門冬湯(バクモンドウトウ)も用います。
食べ物を食べやすい大きさに揃える、とろみを加える、などの介護の工夫が、漢方薬でいっそう効果的になるといいな。
漢方メモ2
オーダーメイドで治療法を決める漢方医学では、元々の体質を重視します。基本的な体質は「虚証」と「実証」にわけられます。「虚証」は筋肉が少なくどちらかというと弱々しいタイプ。「実証」は筋肉質でがっちりしているタイプです。同じ症状でもタイプによって使う漢方薬が違ってきます。介護を受けるお年寄りにはどちらかというと「虚証」が多いので、虚証向きの漢方薬が用いられることが多くなります。
「食べる」の問題2 しゃっくり
31 呉茱萸湯 体力が低下して、手足が冷えている人に。高齢者や術後患者、がん治療中の方にも使いやすい漢方薬です。冷えによって増悪する慢性頭痛などにも。(ここに注意!苦いので、服用の工夫を
68 芍薬甘草湯 筋肉のけいれんへの作用が知られる漢方薬で、しゃっくりにも使われます。即効性が期待できるので頓服で。(ここに注意!甘草をふくんでいます)
14 半夏瀉心湯 消化器症状全般に幅広い作用が知られる漢方薬で、しゃっくりにも使われます。(ここに注意!甘草、黄ごんを含んでいます
西洋薬には特効薬がないしゃっくり
しゃっくりは抗がん薬の副作用や手術の影響でも発症します。漢方薬には西洋医学では特効薬がないこれらの症状に対処できるものがあり、QOLの維持に役立てられています。
「食べる」の問題3 吐き気・嘔吐
17 五苓散 のどが乾いて、むくみ、めまいを伴い、胃に水がたまってチャプチャプする感じがある場合に。(ここに注意!桂皮を含んでいます)
69 茯苓飲 高齢者や病後で体力が低下した人で、胸がつかえる、吐き気がする、酸っぱいものが上がってくる、水のようなものを吐く、といった症状に使われます。
43 六君子湯 食欲不振に対する作用が広く知られていますが、逆流や吐き気にも使われています。術後や抗がん薬治療に伴う悪心にも。(ここに注意!甘草を含んでいます)
抗がん薬の副作用対策としての漢方薬
がん化学療法に伴う悪心・嘔吐に対して、制吐剤だけではQOLの維持が十分でない時に漢方薬が役立っています。
「食べる」の問題4 食欲がない
43 六君子湯 食欲不振に一番に使われます。高齢者や、手足が冷えやすい人に。(ここに注意!甘草を含んでいます)
14 半夏瀉心湯 消化管全般の症状に処方される漢方薬ですが、特に胸がつかえたような感じがあって食欲が出ない場合に。(ここに注意!甘草、黄ごんを含んでいます
41 補中益気湯 疲れやすい人、病後や術後に。名前にある「中」は消化管を意味します。きちんと食べて体力を補うというのが名前の由来です。(ここに注意!甘草、当帰を含んでいます)
食は気力・体力の元
食欲不振に使われる漢方薬には、単に消化器症状を改善するだけでなく、気力・体力を回復させるものが多くあります。41 補中益気湯(ホチュウエッキトウ)や43 六君子湯(リックンシトウ)はそうした作用の代表的な漢方薬です。きちんと食べることが気力・体力維持には不可欠、ということですね。
「排泄」の問題1 尿の出が悪い
107 牛車腎気丸 お年寄りなどの下半身の諸症状に。尿の出が悪い時も、頻尿にも、どちらにも作用を持っています。(ここに注意!桂皮、附子を含んでいます。地黄を含んでいるので、時にムカムカを感じることも。
40 猪苓湯 利尿作用で知られる猪苓を含む漢方薬で、排尿障害や尿路不定愁訴に広く使われます。
112 猪苓湯合四物湯 上記40 猪苓湯の症状に加えて、皮膚が乾燥して貧血傾向で色つやが悪く、胃腸が弱い人にはこちらも使われます・
尿が出ないのは怖いので、漢方薬などを上手に使って改善したいね。
「排泄」の問題2 頻尿、尿失禁
107 牛車腎気丸 前立腺肥大、女性に多い過活動膀胱などによる頻尿・尿漏れ、夜間の頻尿、切迫した尿意の改善に幅広く使われます。(ここに注意!桂皮、附子を含んでいます。地黄を含んでいるので、時にムカムカを感じることも。
111 清心蓮子飲 弱々しく冷えのある人の、尿の出は悪いが、尿意は頻繁にある、残尿感、下腹部の不快感といった尿路不定愁訴に。(ここに注意!甘草、黄ごんを含んでいます。
その他の処方
慢性に経過した尿路感染症からくる症状には 56 五淋散(ゴリンサン)、イライラして怒りっぽい人には 76 竜胆瀉肝湯(リュウタンシャカントウ)なども使います。
漢方メモ3
漢方医学では、症状も「虚証」と「実証」に分けます。症状としての「虚証」は生命活動を支える要素が不足している状態で、「実証」は要素の循環が滞って部分的に過剰になっている状態です。不足しているところは補い、過剰になっているところは平らかにするのが漢方治療の基本的な考え方です。例えば補剤は不足したものを補う漢方薬、抑肝散は「気」の過剰を抑える漢方薬です。
「排泄」の問題3 便秘
126 麻子仁丸 どんな便秘にもまずこれを。高齢者にも使いやすい漢方薬です。
51 潤腸湯 体力が低下している人、高齢者の便秘に。水分の足りないところを潤す性質を持っています。(ここに注意!甘草、黄ごん、当帰をふくんでいます。
84 大黄甘草湯 便秘に幅広く使われている漢方薬です。大黄と甘草の二つの生薬で構成されているので、即効性が期待できます。(ここに注意!甘草を含んでいます)
100 大建中湯 腹痛を伴う便秘や、冷えがあり、ガスがたまって下腹がはっている便秘などに。腸の蠕動運動を活発にしたり硬い便を柔らかくする作用があります。
認知症での下剤の難しさ
効果的な下剤は西洋薬にもありますが、効きすぎて軟便や下痢になることがあり、結果的に弄便などの周辺症状につながるという問題があります。漢方薬は便を出させるという下剤としての作用だけでなく、全身の調和をはかって結果的に正常な便通の回復を期待するもので、介護の現場でも使いやすいものといえます。
「排泄」の問題4 術後のイレウスや腸管マヒ/下痢
100 大建中湯 術後のイレウスや腸管マヒに 西洋医学との相性もよく、術後のイレウスや腸管マヒ、抗がん薬やオビオイド系鎮痛薬による便秘などに広く使われています。食品成分のみで構成されていて安全性の高さにも信頼があります。
14 半夏瀉心湯 下痢に この漢方薬は、消化管の入り口(口)から出口(便)までの症状全般に幅広く使われます。抗がん薬による下痢にも。(ここに注意!甘草、黄ごんをふくんでいます。
30 真武湯 下痢に 冷えが強く体が弱っている人に。お年寄りの胃腸疾患など幅広い症状に使われます。(ここに注意!附子を含んでいます)
ひとつの症状を治すだけでなく、からだ全体の調和をはかってその人本来の状態に回復させるのが漢方医学なのね。
漢方メモ4
メモ3で紹介した「虚証」「実証」の他に、症状を「寒」と「熱」に分け、「寒」つまり冷えによる症状には温める漢方薬、熱がこもった症状には冷ます漢方薬、という使い分けをすることもあります。温める漢方薬として代表的なものには100 大建中湯、冷ます漢方薬には 15 黄れん解毒湯などがあります。
むくみ
17 五苓散 消化管やからだの組織の余分な水分を調整する代表的な漢方薬です。各種疾患に伴うむくみ全般に。(ここに注意!桂皮をふくんでいます。脱水症状のある人には禁忌です。
114 柴苓湯 上記 17 五苓散の症状に比べ、消化管の炎症が強い場合に。がん切除術後のリンパ浮腫にも処方されます。(ここに注意!甘草、黄ごん、桂皮を含んでいます)
20 防已黄耆湯 色白で疲れやすく、水ぶとりの体質の人の膝関節の腫れや痛みの伴う下肢のむくみに。
114 柴苓湯と17 五苓散
114 柴苓湯は17 五苓散にさらに7種類の生薬を足したもので、どちらもからだの中で滞っている水分の流れを正す作用があり、むくみによく使われます。とても似た漢方薬ですが、114 柴苓湯に加えられた生薬の違いで、下痢や慢性胃炎などの消化管の症状を伴う場合などに使い分けられています。
手足の感覚の問題1 しびれ、痛み、冷感
107 牛車腎気丸 お年寄りの下半身の諸症状に使われます。タキサン系やオキサリプラチンといった抗がん薬による末梢神経障害にも。(ここに注意! 桂皮、附子を含んでいます。地黄を含んでいるので、時にムカムカを感じることも。
30 真武湯 冷えの強い人に使いやすい、からだを暖める漢方薬です。冷えからくるしびれや痛み、胃腸の症状、気力の低下など、お年寄りの幅広い症状に使われます。(ここに注意!附子を含んでいます
38 当帰四逆加呉茱萸生姜湯 手足の冷えが強く、冷えによる痛みやしびれに。(ここに注意!甘草、桂皮をふくんでいます。
・附子はからだを温めて痛みをとる生薬です
附子はからだを温めつつ痛みをしずめる性質をもっています。附子を含む漢方薬は、基本的に温かいお湯と一緒に服用することがすすめられます。エキス剤をお湯に溶かして飲むのもいいでしょう。
手足の感覚の問題2 筋肉の痛み、こむら返り
68 芍薬甘草湯 筋肉のけいれんとそれに伴う疼痛に有効で、しゃっくりや急性のぎっくり腰などにも用いられます。タキサン系抗癌薬による筋肉痛、末梢神経障害にも使われています。(ここに注意!甘草を含んでいます)
68 芍薬甘草湯はこむら返り、疝痛、月経痛などにも用います。
・即効性と甘草の割合を考えて
甘草を芍薬の2種類の生薬からなる漢方薬です。生薬の数が少ない漢方薬は即効性が期待され、本剤も症状があるときに頓服で用いるのが基本です。他の漢方薬に比べ甘草の割合が多いので、その意味でも長期間続けて飲むよりは頓服に適しています。他の甘草を含む漢方薬や、グリチルリチンを含む薬と併用するときは注意が必要です。
手足の感覚の問題3 膝・関節の痛み
20 防已黄耆湯 色白でお腹がぽっちゃりしている、いわゆる水ぶとりタイプの膝の痛みに。変形性膝関節症にももちいられます。(ここに注意!甘草を含んでいます)
18 桂枝加朮附湯 冷え症でお風呂に入ると楽になるというような人の痛みに。(ここに注意!桂皮、甘草、附子を含んでいます)
28 越婢加朮湯 体力がある人で、関節が腫れて痛む時に。(ここに注意!麻黄、甘草を含んでいます)
漢方メモ5
漢方薬を構成する生薬にも温める性質、冷ます性質のものがあります。温める漢方薬には温める生薬が多く含まれていますが、冷ます生薬も同時に配合されることが多く、作用のバランスがとられています。冷ます性質の漢方薬も同様です。
皮膚の問題 かゆい
86 当帰飲子 冷え性の人で、皮膚がカサカサしている人のかゆみに。熱を持った炎症のある人には不向きです。(ここに注意!甘草、当帰を含んでいます)
15 黄連解毒湯 アトピー性皮膚炎など熱のあるかゆみにはこちらを。熱を冷ます性質があるので、冷え性への使用には注意を。(ここに注意!黄ごん、山梔子を含んでいます。苦いので服用の工夫を)
22 消風散 分泌物が多い、じくじくした湿疹で慢性的にかゆみがあるものに。(ここに注意!甘草、当帰を含んでいます)
「かゆみ」にもいろいろなタイプがあるので、それに合わせて漢方薬を使い分けるんだね。
風邪 風邪をひいた/風邪をひかないために
127 麻黄附子細辛湯(風邪をひいた) お年寄りの、のどがイガイガする、背中がぞくぞくする、という風邪のひきはじめに。(ここに注意!麻黄、附子を含んでいます)
1 葛根湯(風邪をひいた) 市販薬としても有名ですが、風邪の初期に使います。風邪が長引いたら別の処方に切り替えます。(ここに注意!甘草、桂皮、麻黄を含んでいます)
41 補中益気湯(風邪をひかないために) 気力・体力の底上げをはかり、免疫力アップを目指して使われます。(ここに注意!甘草、当帰を含んでいます)
ひとくちに風邪といっても、ひきはじめに使う漢方薬と長引いてから使う漢方薬は別なんだね。
介護のお手伝いをする漢方薬早見表
本誌で紹介した漢方薬の中で、特に認知症およびがん患者のケアで出会うことの多いものをまとめました。症状改善の観察や副作用への注意の参考にしてください。本誌で紹介したものは代表的な処方のごく一部です。実際には症状や体質に合わせてこの他の漢方薬が使われることもあります。
認知症ケアによく使われる漢方薬
54 抑肝散(ヨクカンサン)
主な症状
認知症の周辺症状
・妄想・幻覚・興奮/攻撃性・うつ・不安
・焦燥感/易刺激性・睡眠障害
不眠
夜間覚醒
注意点
甘草、当帰を含む!
137 加味帰脾湯(カミキヒトウ)
主な症状
眠りが浅い
精神不安
注意点
甘草、当帰を含む!
47 釣藤散(チョウトウサン)
主な症状
認知症の周辺症状
・妄想・幻覚・興奮/攻撃性・うつ・不安
・焦燥感/易刺激性・睡眠障害
頭痛
過度の緊張
注意点
甘草を含む!
15 黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)
主な症状
のぼせ気味でイライラの症状
注意点
黄ごん、山梔子を含む!
がん患者のケアによく使われる漢方薬
41 補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
48 十全大補湯(ジュウゼンタイホトウ)
108 人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)
主な症状
気力・体力の低下、全身倦怠感、食欲不振、免疫力が低下して風邪をひきやすい、化学療法による骨髄抑制、術後の貧血
注意点
甘草、当帰を含む!
54 抑肝散(ヨクカンサン)
主な症状
がん末期のせん妄
注意点
甘草、当帰を含む!
100 大建中湯(ダイケンチュウトウ)
主な症状
術後のイレウス、腸管マヒ、化学療法、オピオイド系鎮痛薬による便秘
注意点
特になし
107 牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)
主な症状
化学療法による末梢神経障害・しびれ、痛み、冷感、術後の排尿障害
注意点
桂枝、附子を含む!
14 半夏瀉心湯(ハンゲシャシントウ)
主な症状
化学療法による口内炎や下痢、悪心・嘔吐、食欲不振
注意点
甘草、黄ごんを含む!
68 芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)
主な症状
化学療法による筋肉痛、化学療法によるしゃっくり、こむら返り
注意点
甘草を含む!
43 六君子湯(リックンシトウ)
主な症状
術後/化学療法による食欲不振、胃部不快感、胸焼け、嘔吐、下痢
注意点
甘草を含む!
漢方薬になった食べ物①
ショウキョウ(生姜) ・・・しょうが
こんな漢方薬に使われています
1葛根湯、 43六君子湯、 41補中益気湯など
Ⅱ 介護現場でよく出会う漢方薬を知ってみよう
認知症やがん患者の術後、緩和ケアなどの現場で漢方薬が広く使われるようになっています。
介護の現場で出会うことの多い漢方薬について、詳しくご紹介します。
41 補中益気湯
気力・体力が低下している人への代表的な補剤です。
お年寄りや術後、がん患者などにも使われます。
■効能又は効果
消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者の次の諸症」:夏やせ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症
■用法・用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
全身がだるい 食欲がない 疲れやすい 風邪をひきやすい 声や表情に力がない
補中益気湯はこれらの生薬でできています。
からだを温める
ニンジン(人参) ソウジュツ(蒼朮) オウギ(黄耆) トウキ(当帰) チンピ(陳皮) タイソウ(大棗) ショウキョウ(生姜)
からだを冷ます
サイコ(柴胡) ショウマ(升麻)
中間の性質
カンゾウ(甘草)
100 大建中湯
お年寄りから術後・抗がん薬の副作用対策まで幅広い腸の問題に。
食品成分だけでつくられている漢方薬です。
■効能又は効果
腹が冷えて痛み、腹部膨満感のあるもの
■用法・用量
通常、成人1日15.0gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
術後のイレウスとその予防 過敏性腸症候群 便秘 比較的強い腹痛 腹部膨満感
大建中湯はこれらの生薬でできています。
からだを温める
カンキョウ(乾姜) ニンジン(人参) サンショウ(山椒) コワイ(膠飴)
食べ物だけでできているのがいいね。
大建中湯は腸管運動亢進作用、腸管粘膜血流の増加作用、抗炎症作用があることが解明され、臨床データでは術後単純性癒着性イレウス症状、過敏性腸症候群患者の腹部膨満感などの消化器症状、難知性便秘症を含む排便障害、向精神薬による排便障害などの改善効果が証明されています。
68 芍薬甘草湯
こむら返りに対する数少ない治療薬です。頓服で即効性があることも人気の秘訣。
■効能又は効果
急激におこる筋肉のけいれんを伴う疼痛
■用法・用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
急激な足のけいれん(こむら返り)
しゃっくり
急に来るぎっくり腰
尿管結石
胃の痛み
生理痛
芍薬甘草湯はこれらの生薬でできています
シャクヤク(芍薬)
カンゾウ(甘草)
含まれている生薬の数が少ない漢方薬は、効果が出るまでの期間が短くなるんだって
だから芍薬甘草湯は即効性があるのね!
甘草を多く含むので、副作用の低カリウム血症(偽アルドステロン症)の出現に注意が必要です。そのため、処方は症状が出たときの頓服が基本で、できるだけ長期間の継続投与は避けるようにします。
107 牛車腎気丸
お年寄りなど体力がない人の下半身の諸症状やかすみ目に。
附子を含み、からだを温める漢方薬です。
■効能又は効果
疲れやすくて、四肢が冷えやすく尿量減少または多尿で時に口渇がある次の諸症:
下肢痛、腰痛、しびれ、老人のかすみ目、かゆみ、排尿困難、頻尿、むくみ
■用法・用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
かすみ目、口が乾く、かゆみ、四肢のしびれ、下肢の脱力感、冷え、夜間頻尿、排尿困難
牛車腎気丸はこれらの生薬でできています。
サンシュユ(山茱萸) サンヤク(山薬) ケイヒ(桂皮) ブシ末(附子)
ジオウ(地黄) シャゼンシ(車前子) タクシャ(沢瀉) ボタンピ(牡丹皮)
ブクリョウ(茯苓) ゴシツ(牛膝)
54 抑肝散
認知症の周辺症状の改善作用の研究が進み、注目度急上昇!
がん末期のせん妄などにも。
■効能又は効果
虚弱な体質で神経が高ぶるものの次の諸症:
神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症
■用法・用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
イライラしている
怒りっぽい
眠れない
興奮しやすい
せん妄
徘徊
抑肝散はこれらの生薬でできています。
ソウジュツ(蒼朮) センキュウ(川きゅう) トウキ(当帰)
チョウトウコウ(釣藤鈎) サイコ(柴胡)
ブクリョウ(茯苓) カンゾウ(甘草)
甘草を含む漢方薬の副作用である低カリウム血症(偽アルドステロン症)は、高齢者ではその出現頻度が高くなります。抑肝散は甘草を含み、かつ高齢者に使われることが多い漢方薬なので、注意が必要です。
47 釣藤散
認知症の周辺症状に抑肝散と同様使われています。
慢性頭痛やめまいにも用いられます
■効能又は効果
慢性に続く頭痛で中年以降、または高血圧の傾向のあるもの
■用法・用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する
慢性頭痛
のぼせ
肩こり
めまい
認知症の周辺症状
釣藤散はこれらの生薬でできています
チンピ(陳皮) ハンゲ(半夏) ニンジン(人参) ボウフウ(防風) ショウキョウ(生姜)
チョウトウコウ(釣藤鈎) バクモンドウ(麦門冬) キクカ(菊花) セッコウ(石膏)
ブクリョウ(茯苓) カンゾウ(甘草)
43 六君子湯
薬の影響でも、精神的なものでも、体力低下からくるものでも、食欲不振にはこれ!
■効能又は効果
胃腸の弱いもので、食欲がなく、みぞおちがつかえ、疲れやすく、貧血性で手足が冷えやすいものの次の諸症:胃炎、胃アトニー、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐
■通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
食欲不振
胃もたれ
X線や内視鏡でもても異常がみられない胃の不快感や痛み
六君子湯はこれらの生薬でできています。
ニンジン(人参) ソウジュツ(蒼朮) ハンゲ(半夏) チンピ(陳皮) タイソウ(大棗) ショウキョウ(生姜)
カンゾウ(甘草) ブクリョウ(茯苓)
お腹が温まりそうだね
29 麦門冬湯
痰のないしつこい空咳に。気管支炎や気管支ぜんそくにも使われます
■効能または効果
痰のきれにくい咳、気管支炎、気管支ぜんそく
■用法・用量
通常、成人1日9.0gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する
のどに痰がはりついたような感じのどのイガイガ
はげしく咳き込むけれど痰は出ない
風邪の後、咳だけ残っている
麦門冬湯はこららの生薬でできています
ハンゲ(半夏) タイソウ(大棗) ニンジン(ニンジン)
バクモンドウ(麦門冬)
コウベイ(粳米) カンゾウ(甘草)
半夏以外は全部気道を潤す性質を持っている生薬です!
痰の多い咳に使われないのはそのためなのね。
14 半夏瀉心湯
食道全般の症状に幅広く使われます。
抗がん薬や免疫抑制剤による口内炎や下痢にも。
■効能又は効果
みぞおちがつかえ、ときに悪心、嘔吐があり食欲不振で腹が鳴って何便または下痢の傾向のあるものの次の諸症:
急・慢性胃腸カタル、発酵性下痢、消化不良、胃下垂、神経性胃炎、胃弱、二日酔、げっぷ、胸焼け、口内炎、神経炎
■用法・用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
吐き気・嘔吐
下痢
食欲不振
抗がん薬による口内炎や下痢
半夏瀉心湯はこれらの生薬でできています
ハンゲ(半夏) ニンジン(人参) タイソウ(大棗) カンキョウ(乾生)
オウゴン(黄ごん) オウレン(黄連)
カンゾウ(甘草)
127 麻黄附子細辛湯
のどがチクチクするような風邪の出鼻をくじく漢方薬。お年寄りの初期の風邪に使われます。
■効能又は効果
悪寒、微熱、全身倦怠、低血圧で頭痛、めまいあり、四肢に疼痛冷感あるものの次の諸症:
感冒、気管支炎
■用法・用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
麻黄附子細辛湯はこれらの生薬でできています。
マオウ(麻黄) サイシン(細辛) ブシ末(附子)
お年寄りの風邪はまさに万病の元なので、ひきはじめに対処できるとありがたいね!
86 当帰飲子
お年寄りや、体が弱っている人の、熱を持たない乾いたかゆみにはこの処方が適しています。
■効能又は効果
冷え症のものの次の諸症:
慢性湿疹(分泌物の少ないもの)、かゆみ
■用法・用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
分泌物の少ない乾いた感じの湿疹、かゆみ
当帰飲子はこれらの生薬でできています。
トウキ(当帰) シツリシ(しつり子) センキュウ(川きゅう) ボウフウ(防風) カシュウ(何首烏) オウギ(黄耆) ケイガイ(荊芥)
ジオウ(地黄) シャクヤク(芍薬)
カンゾウ(甘草)
漢方薬になったたべもの
コウベイ(粳米)…お米
こんな漢方薬に使われています
21 麦門冬湯など
巻頭言
さらに増す医療スタッフの重要性
現代医療は治療技術や薬剤、医療機器の進歩だけで成立するものではなく、患者さんのケアに関わるすべての専門職種の協力がなくては成り立ちません。
たとえばがん患者さんを例にとると、外科、放射線科、内科の医師はもとより、抗がん剤の調整や副作用対策に取り組む薬剤師、精神面のサポートをする臨床心理士、術後のリハビリを行う理学療法士や作業療法士、そして誰よりも患者さんの身近にいて患者さんの心と体の状態を観察し看護にあたる看護師など、多くのスタッフの皆さんにはこれまで以上の期待と責任が寄せられています。
チーム医療の実践で求められるもの
多くの専門職種の協力で医療を支えるという精神はチーム医療という形で実践されています。チーム医療は患者さんの生活全体の質(QOL)を向上させる「全人的医療」を目的としています。そのためには患者さんを中心に様々な職種の医療スタッフが互いに連携しながら各自の専門性を発揮することが求められます。すなわち、各スタッフは患者さんを中心に同等の立場でそれぞれの専門性に責任を持つ時代になったのです。チーム医療における医療スタッフの役割は、患者さんの日常の変化や訴えにきめ細かく対応して、最先端医療による治療の成果と全人的ケアを結びつけることにあります。
医療スタッフこそ漢方知識を
チーム医療の根底にある「全人的医療」の概念は漢方治療に共通するものです。表に出ている症状の背景には全身の生命活動のバランスの乱れがあり、その環境を整えることで局所の症状を改善する、というのが漢方治療の考え方なのです。このような概念で使われてきた漢方薬は、臨床検査では測れないような微妙な変化や漠然とした患者さんの訴えなど、西洋医学では対応が難しい症状に力を発揮します。つまり医療スタッフの皆さんが接することの多い臨床の諸問題こそ、漢方薬で解決できる可能性が高いのです。全国の臨床医のうち、日常臨床に漢方薬を取り入れている医師は85%を超えているという調査結果もあります。医療スタッフの皆さんが日常業務で漢方薬に接する機会も増えています。そうしたなかで、皆さんが正しい漢方薬の知識とともに全人的ケアに役立ててくだされば、それは現代医学が求めるこれからの医療のあり方に大いに貢献すると期待されます。
本書が医療スタッフのみなさんの漢方治療への理解の扉を開く一助になれば幸いです。
目次
Ⅰ ステップ1、2、3で「困った」を解決してみる
かゆい
だるい
食欲がない
眠れない
肩がこる
冷える
咳が長引く
風邪をひきやすい
風邪をひいてしまったら
手足がしびれる
認知症に伴う周辺症状/お年寄りの諸問題
Ⅱ 漢方薬トップ10をもっと知ってみる
1大建中湯(ダイケンチュウトウ)
2芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)
3葛根湯(カッコントウ)
4補中益気湯(ホチュウエッキトウ)
5六君子湯(リックンシトウ)
6抑肝散(ヨクカンサン)
7牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)
8加味逍遥散(カミショウヨウサン)
9小青竜湯(ショウセイリュウトウ)
10麦門冬湯(バクモンドウトウ)
Ⅲ すぐに効く漢方薬を試してみる
二日酔い
便秘
乗り物酔い
こむら返り
Ⅳ 漢方医学を勉強してみる
「寒」と「熱」
「不足」と「過剰」
Ⅴ 漢方薬の飲み方を工夫してみる
漢方薬服用のひと工夫
Ⅵ よくある患者さんの質問とベストアンサー
服用のタイミング Q1、Q2、Q3
漢方薬の効果・服用期間 Q4、Q5
併用について Q6、Q7
副作用と安全性 Q8、Q9
漢方薬と医療経済 Q10、Q11
Ⅰ ステップ1、2、3で「困った」を解決してみる
医学がどんなに進歩しても治しにくい症状があります。命に関わるものではないけれどじわじわと患者さんを苦しめる、そんな症状は漢方薬が得意とする分野です。ここではそれぞれの症状に3つの漢方薬を提案します。体格や体質により効果のある漢方薬は違ってきます。1、2、3はいずれも各症状に使われる代表的な漢方薬で、患者さんに合わせて使い分けられています。
■かゆい
1 黄連解毒湯 「かゆい」にはまずこの漢方薬。特にアトピー性皮膚炎に多く使われます。体を冷やす黄連を含んでいます。苦いので飲みにくい場合はオブラートに包むなどのひと工夫を。
2 消風散 分泌物が多い湿疹でかゆみが強いものにはこの処方も使われます。
3 当帰飲子 入院中やお年寄りの患者さんで体力が低下した人のかゆみの訴えに処方されることが多い漢方薬です。皮膚がカサカサして乾いた感じの湿疹に。
「かゆみ」の種類で漢方薬を使い分ける
「かゆみ」の性格は多様です。起因する疾患もアトピー性皮膚炎、じんましん、湿疹などさまざまで、所見も炎症を伴うかゆみ、じくじくした湿疹によるかゆみ、皮膚がカサカサしている人のかゆみなど様々です。漢方薬はそうしたかゆみの種類に合わせて処方されます。アトピー性皮膚炎のような熱のあるかゆみには冷やす薬を、冷えのある人には温める漢方薬が使われます。
蝉の抜け殻がかゆみ止めに!
消風散は13種もの生薬で構成されています。このなかにはゼンタイ(蝉退)という蝉の抜け殻はかゆみ止めや解熱作用があることが知られています。
■だるい
1 十全大補湯 体力・気力の低下に加えて、貧血気味でお肌もカサカサという体全体の衰えのある場合はこの処方も適しています。
2 補中益気湯 体力・気力が低下して、目尻や口角が下がり、肩もがっくり落ちていて時に寝汗をかくような人に。気力を充実させてだるさをとる処方です。
3 人参養栄湯 病後や術後のだるさにはこの処方も考えます。冷えや貧血がある場合に使ってみたい漢方薬です。呼吸器系の症状があるときに使用します。
だるさに使われるその他の漢方薬
他にも、冷え・貧血がある女性には当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)、夏ばてには清暑益気湯(セイショエッキトウ)なども使われます。
「補剤」で気力・体力の底上げを
上の3つの処方は補剤の代表格です。補剤とは不足したものを補う漢方薬の総称です。低下している体の機能を回復させて気力・体力を補うことを目的に使います。「だるい」という訴えの背景には体の機能が低下して気力・体力が不足した状態があるので、補剤の効果が期待できるのです。
■食欲がない
1 六君子湯 食欲不振にはまずこの漢方薬をためしてください。機能性ディスペプシアから抗がん剤などの副作用による食欲不振まで、幅広く解決してくれる頼もしい漢方薬です。
2 半夏瀉心湯 みぞおちがつかえ、げっぷが出ているような人に。暴飲暴食で胃が疲れているようなとき、二日酔いで食欲がないとき、また口内炎にもよく用いられます。
3 補中益気湯 補剤には食欲不振を改善する働きもあります。気力の低下がいちじるしい場合には、こうした補剤もためしてください。
食欲不振と漢方薬
食欲不振は広い領域でみられる訴えで、長く続く場合は患者さんの全身状態を左右しかねません。漢方薬には食欲不振に効果が期待されるものが数多くあります。六君子湯など食欲改善作用の機序が科学的に解明されている漢方薬もあり、西洋医学の臨床でも高い評価を受けています。
六君子湯と食欲亢進ホルモン「グレリン」
六君子湯の作用は科学的にも研究が進み、胃の運動促進、胃壁を弛緩させて食物を受け入れやすい状態にする、グレリンの分泌亢進など、多彩な作用が解明されています。グレリンとは胃から分泌される食欲亢進作用を持つホルモンです。六君子湯とグレリンの関係には国内外からの関心が集まっています。
■眠れない
1 加味帰脾湯 入院患者さんなどで体力が落ち、顔色が悪いような人に。不眠だけでなく不安などを訴えるタイプによく使われます。
2 抑肝散 イライラが強く興奮気味で眠れないときはこの漢方薬をためしてください。子供の夜泣き、認知症の周辺症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)にもよく使用されます。
3 酸棗仁湯 心が疲れ弱って眠れないときに使われることの多い漢方薬です。不安があり神経過敏の人に向いています。
心身の状態を整えて眠りを誘う漢方薬
不眠の背景には多くの場合、不安や興奮、冷えなどがあるのですが、漢方薬で心身の状態を改善すれば、睡眠のマネージメントが楽になります。また、漢方薬には日中の眠けやふらつきなどの心配がほとんどありません。これはお年寄りにも使いやすい特徴といえます。
眠れるようになると心も落ち着いて全身状態も良くなるね!
*認知症に伴う周辺症状(BPSD):認知症に伴って生じるせん妄、徘徊、攻撃行動、異食などの異常行動や精神状態のことを指します。
■肩がこる
1 葛根湯 肩こりにはまず葛根湯をためしてください。風邪のときに飲むというイメージが強いのですが、肩こりや頭が重いときに服用すると速効性が期待できます。
2 二朮湯 四十肩、五十肩に使われる漢方薬です。体力が衰えていない患者さんが肩や上腕に鈍い痛を訴えたらためしてください。
3 加味逍遥散 女性で肩こり、更年期障害など不満や不安が強い場合によく使われる漢方薬です。
「肩こりくらい」、「五十肩くらい」と軽視しないで
漢方薬を使うとに大切なのは、西洋医学的治療をまず検討し、それで十分な効果が得られなかったときに漢方薬を考えるという姿勢です。肩こりや五十肩は「この程度は西洋薬のお世話になるほどでない」と判断してしまいがちですが、背景にどんな疾患が潜んでいるかわかりません。長引く症状には、まず西洋医学的な検査で原疾患がないか確認しましょう。
肩こりと風邪
葛根湯は風邪だけでなく肩こりや頭痛にも効果を発揮します。一見意外な組合せですが、風邪のときでも肩こりのときでもこわばった筋肉をほぐして血の巡りをよくするという作用が有効性につながるのです。
■冷える
1 当帰四逆加呉茱萸生姜湯 どんな冷え性にも幅広く処方される漢方薬です。体力のない人にも使いやすい漢方薬で、慢性的に冷えの訴えがある人によく使われます。
2 人参養栄湯 入院中の患者さんなどで体力がなく、手足が冷えて食欲もないような場合は人参養栄湯で元気になってもらいましょう。
3 八味地黄丸 高齢で新陳代謝が低下して冷えやしびれを感じている患者さんには八味地黄丸を。
「冷え」と漢方薬
「冷え」は西洋医学では診断しにくい症状です。解熱剤はありますが、冷えを治す薬はすぐには思い浮かびませんよね。漢方薬は、冷えたものは暖める。熱いものは冷ます、という考えで体の環境を一定の好ましい状態に保つことを目的とします。ですから、「冷え」の改善は漢方薬の得意分野なのです。
その他の冷えに効く漢方薬
この他にも、手足の冷えには温経湯(ウンケイトウ)や当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)下痢や食欲不振がみられたら人参湯(ニンジントウ)などもよく使われます。八味地黄丸にゴシツ(牛膝)とシャゼンシ(車前子)を加えた牛車腎気丸も高齢の患者さんに使いやすい漢方薬です。
■咳が長引く
1 麦門冬湯 空咳が続いて、のどに痰がはりついたような感じでいくら咳き込んでもとれない、という訴えがあったら麦門冬湯が適しています。
2 清肺湯 慢性化した呼吸器疾患で黄色い痰が多く出て長引く咳にはこちらの漢方薬がよく使われます。
3 柴朴湯 のどに違和感があり咳・痰が続く場合はこの漢方薬も使われます。神経過敏や気分がふさいでいる人に特に向いています。喘息に使われる漢方薬として広く知られています。
習慣化した咳を局所で絶つ
咳にはいろいろな種類があります。空咳、痰の多い咳、背景に神経過敏のある咳など、いろいろです。一般的に「鎮咳薬」は脳の咳中枢に働きかけて咳を抑えるものですが、漢方薬は刺激の元になっている気管支の環境や精神的な背景を改善するので、咳の性質に合わせて対応できる処方といえます。
まだまだある、咳に効く漢方薬
他にも、半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)、参蘇飲(ジンソイン)、柴陥湯(サイカントウ)、竹じょ温胆湯(チクジョウンタントウ)、滋陰至宝湯(ジインシホウトウ)、滋陰降火湯(ジインコウカトウ)、五虎湯(ゴコトウ)なども咳に処方されます。
■風邪をひきやすい
1 補中益気湯 風邪をひきやすい人には免疫力を高める作用が知られているこの漢方薬を。
低下した気力・体力の底上げをはかり、体を守る機能を回復させます。
2 十全大補湯 気力ばかりか貧血や皮膚の乾燥など体全体の衰えのある人にはこの処方で免疫力アップをはかります。
3 柴胡桂枝湯 胃腸が弱い人やお子さんなどで風邪をひきやすいタイプにはこの漢方薬もよく使われます。
補剤で風邪の予防を
補剤は、神経系、免疫系、内分泌系の調整をして生体防御機能を回復させる漢方薬です。補剤によって低下しがちの気力・体力が回復するのは、こうした総合的な作用のおかげなのです。「風邪をひきやすい」のは生体防御機構の乱れの表れです。これらの補剤でその乱れを整えてあげてください。
補剤の作用の証明
補剤の免疫能改善効果について科学的な解明が進んでいます。たとえば補中益気湯を服用した患者さんは服用しなかった患者さんより風邪をひく回数が少なかったという調査結果や、補中益気湯の服用で重要な免疫機能のひとつであるNK細胞活性が上昇したというデータが報告されています。
■風邪をひいてしまったら
1 葛根湯 かぜかな?と思ったらすぐに葛根湯を。咳・鼻などの症状が出る前で、頭痛や熱っぽいのに汗が出ないときには速効性を発揮します。
2 麻黄附子細辛湯 お年寄りや、やや弱々しいタイプの人の風邪にはこちらの漢方薬も処方されます。ぞくぞくして微熱があるというタイミングで飲むといい漢方薬です。
3 麻黄湯 熱はあるけれど汗は出ない、関節が痛く咳や寒気、頭が重いなど体格的な風邪の症状にはこちらの漢方薬がいいでしょう。インフルエンザにも使われている処方です。
どのタイミングかで処方が変わります
風邪は病態がどんどん変わる疾患です。頭が重いなと思っているうちに咳が出る、鼻汁が出る、下痢をする、熱が出るといった変化があります。漢方薬は病名ではなく症状に合わせて治療するものなので、ひとくちに風邪といってもどの症状のタイミングかで選ぶ漢方薬がちがってくるのです。
鼻水の多い鼻風邪には小青竜湯(ショウセイリュウトウ)や葛根湯加川きゅう辛夷(カッコントウカセンキュウシンイ)も使われています。
手足がしびれる
1 牛車腎気丸 お年寄りを悩ませるしびれにはまずこの処方を。抗がん剤に伴う末梢神経障害(しびれ)にも使われます。疲れやすく手足の冷えや頻尿がある患者さんには特に効果が期待されます。
2 真武湯 顔色が悪く新陳代謝が落ちて手足が冷たくしびれ感のある方に使います。脊椎脊髄疾患による神経へのダメージのしびれなどに使われることもあります。
3 八味地黄丸 坐骨神経痛など下半身の痛みやしびれにはこの処方も使われます。
まずは西洋医学できちんと検査を
しびれの背後には中枢や脊髄などの重大な疾患が隠れていることがあるので、しびれの訴えがあったらまずは西洋医学的な検査と治療を受けるようにしてください。
牛車腎気丸と八味地黄丸の足し算・引き算
八味地黄丸にゴシツ(牛膝)とシャゼンシ(車前子)という二つの生薬を加えると牛車腎気丸になります。どちらもお年寄りの下半身を中心とした問題によく使われますが、牛車腎気丸は冷えや頻尿などの症状が強い人に使われます。
■認知症に伴う周辺症状/お年寄りの諸問題
1 抑肝散 認知症に伴う周辺症状(BPSD)を改善する効果が証明され、今や認知症んもケアに欠かせない漢方薬となっています。
2 釣藤散 血圧の高いお年寄りの頭痛やめまいなどに。認知症のBPSDの改善にも使われます。
3 牛車腎気丸 前立腺肥大や頻尿などの泌尿器系から目のかすみ、皮膚のかゆみ、むくみなど、お年寄りの全身の症状に幅広く使える漢方薬です。
認知症のBPSDとは
夜間せん妄、徘徊、興奮、暴力、不潔行為などの行動や心理状態をBPSDといいます。認知症の介護・対応を困難にするのはBPSDで、BPSDを改善すれば介護者の負担は大いに軽減されます。BPSD改善効果が証明された抑肝散に注目が集まっているのはそのためなのです。
お年寄りに効果のある漢方薬を知っておくと、看護の幅が広がるね!
西と東・・・・その1
ナイチンゲールと漢方医学
「看護とはその人の生命力の減退が最小限になるように生活のすべてを整えることだ」というのはナイチンゲールの言葉です。
一方、心身の環境を整えて生体の機能を正常に保とうとするのは漢方医学の考え方の基本です。
看護と漢方医学には、人の生命力を信じてそれを大切にするという点で共通する精神が流れているといえます。
Ⅱ漢方薬トップ10をもっと知ってみる
漢方エキス顆粒は、臨床で広く使われて西洋医学のお手伝いをしています。ここでは臨床で特に使われているトップ10の漢方エキス製剤をご紹介します。
※漢方エキス顆粒とは
薬草を煎じて煮出すという古くからの方法に対し、煎じたエキスを顆粒状にしたものが漢方エキス顆粒です。品質が安定している、煎じる手間がかからない、などのメリットがあり西洋医学を基礎とした臨床で使いやすいものになっています。
(本文の「効能又は効果」および「用法・用量」はツムラ医療用漢方製剤の記載による)
1 大建中湯
腸の問題にはこれ!
科学的エビデンスも豊富でドクターからの信頼も厚く
腹痛・腹部膨満感、術後イレウスを中心に幅広く活躍。
■効能又は効果
腹が冷えて痛み、腹部膨満感のあるもの
■用法・用量
通常、成人1日15.0gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
術後のイレウス(腸閉塞や通過障害)
過敏性腸症候群
便秘
比較的強い腹痛
腹部膨満感
大建中湯はこれらの生薬でできています。
カンキョウ(乾姜) ニンジン(人参) サンショウ(山椒) コウイ(膠飴)
○大建中湯は腸管運動亢進作用と腸管血流の増加作用が知られ、臨床データでは術後単純性癒着性イレウス症状、過敏性腸症候群患者の腹部膨満感などの消化器症状、難知性便秘症を含む排便障害、向精神薬による排便障害などの改善効果が報告されています。
クイズ
漢方薬を食間に飲み忘れた場合はどうすればいい?
a 1回服用を抜かして次の食間からふくようする
b 1回食事を抜かして食間状態にして服用する
c 気づいた時点でとにかく服用して1日量を守る
正解:c
1日量を守ることが大切なのでcが正解です。
服用を抜かすaや、規則正しい生活のリズムを崩すbを選択しないよう、患者さんを指導してあげましょう。
2 芍薬甘草湯
足がつるなど筋肉のけいれんは日常生活だけでなく臨床でもよく経験します。それだけに使用頻度も高く第2位にランクイン!
■効能又は効果
急激におこる筋肉のけいれんを伴う疼痛
■用法・用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
急激な足のけいれん(こむらがえり)
急にくるぎっくり腰
尿管結石
胃の痛み
生理痛
芍薬甘草湯はこれらの生薬でできています。
カンゾウ(甘草) シャクヤク(芍薬)
○たった2種類の生薬で構成されている漢方薬です。
構成生薬の数が少ないと効果が早く現れやすいといわれていますが、まさにこの漢方薬は即効性があり、こむら返りやぎっくり腰など急性症状に頓服で効果を示します。
ただし、カンゾウ成分のグリチルリチンは低カリウム血症、むくみなど副作用が報告されているので気をつけてください。
芍薬甘草湯はすぐに効果が得られやすいので基本は頓服が向いています。
カンゾウを多く含む漢方薬だから、長期連用の患者さんにはむくみなどの出現に注意してね。
3 葛根湯
風邪のひきはじめ、肩こりなどへの速効性に患者さんのリピートも多く知名度の高い漢方薬です。
■効能又は効果
自然発汗がなく頭痛、発熱、悪寒、肩こりなどを伴う比較的体力のあるものの次の諸症:
感冒、鼻かぜ、熱性疾患の初期、炎症性疾患(結膜炎)角膜炎、中耳炎、扁桃腺炎、リンパ腺炎)、肩こり、上半身の神経痛、じんましん
■用法・用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
頭痛
首や肩のこり
風邪のひきはじめ
葛根湯はこれらの生薬でできています。
カッコン(葛根) タイソウ(大棗) マオウ(麻黄) カンゾウ(甘草) ケイヒ(桂皮) シャクヤク(芍薬) ショウキョウ(生姜)
○風邪のひきはじめ、熱がこもって汗が出ないときに処方する漢方薬です。有名な漢方薬で使いやすいのですが、マオウの成分エフェドリンによる頻脈やカンゾウの成分グリチルリチンによるむくみなどがまれに出ることがあるので患者さんのドキドキ、むくみなどの訴えに気をつけて!
■4 補中益気湯
低下した気力・体力を補い
免疫能を高める
補剤の代表格は西洋医学のよき伴侶です。
■効能又は効果
消化機能が衰え、四肢倦怠感著しい虚弱体質者の次の諸症:
夏やせ、病後の体力増強、結核症、食欲不振、胃下垂、感冒、痔、脱肛、子宮下垂、陰萎、半身不随、多汗症
■用法・用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
全身がだるい
食欲がない
疲れやすい
風邪をひきやすい
声や表情に力がない
補中益気湯はこれらの生薬でできています。
オウギ(黄耆) ソウジュツ(蒼朮) ニンジン(人参) トウキ(当帰) サイコ(柴胡) タイソウ(大棗) チンピ(陳皮) カンゾウ(甘草) ショウマ(升麻) ショウキョウ(生姜)
■5 六君子湯
食欲不振にはこれ!
機能性ディスペプシアから抗がん剤やSSRIなどによる薬剤性の食欲不振まで幅広く確かな守備力に信頼があります。
■効能又は効果
胃腸の弱いもので、食欲がなく、みぞおちがつかえ疲れやすく、貧血症で手足が冷えやすいものの次の諸症:
胃炎、胃アトニー、胃下垂、消化不良、食欲不振、胃痛、嘔吐
■用法・用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
食欲不振
胃もたれ
x線や内視鏡でみても異常がみられない胃の不快感や痛み
酸っぱいものが上がってくる
六君子湯はこれらの生薬でできています。
ソウジュツ(蒼朮) ニンジン(人参)
ホンゲ(半夏) ブクリョウ(茯苓)
タイソウ(大棗) チンピ(陳皮)
カンゾウ(甘草) ショウキョウ(生姜)
名前は「六」だけど8つの生薬でできているんだよ!
■6 抑肝散
認知症の周辺症状の改善作用が証明され、イライラ、起こりやすい、不眠など臨床症状改善作用の機序もわかってきています。
■効能又は効果
虚弱な体質で神経が高ぶるものの次の症状:神経症、不眠症、小児夜なき、小児疳症
■用法・用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
イライラしている
怒りっぽい
眠れない
興奮しやすい
せん妄
徘徊
*周辺症状改善効果 認知症患者さんを対象にした臨床試験でBPSD改善効果が証明されています。
抑肝散はこれらの生薬でできています。
ソウジュツ(蒼朮) ブクリョウ(茯苓)
センキュウ(川キュウ) チョウトウコウ(釣藤鈎)
トウキ(当帰) サイコ(柴胡)
カンゾウ(甘草)
認知症のケアで大変なのは問題行動。これが改善すれば、患者さんもご家族も看護スタッフも、とても楽になるわ。
■7 牛車腎気丸
お年寄りの頻尿改善に確かな実績。下半身のしびれや痛みにも処方されます。
■効能又は効果
疲れやすくて、四肢が冷えやすく尿量減少または多尿で時に口渇がある次の諸症:下肢痛、腰痛、しびれ、老人のかすみ目、かゆみ、排尿困難、頻尿、むくみ
■用法・用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
かすみ目
口が渇く
かゆみ
四肢のしびれ
下肢の脱力感
冷え
夜間頻尿
排尿困難
牛車腎気丸はこれらの生薬でできています。
ジオウ(地黄) ゴシツ(牛膝)
サンシュユ(山茱萸) サンヤク(山薬)
シャゼンシ(車前子) タクシャ(沢瀉)
ブクリョウ(茯苓) ボタンピ(牡丹皮)
ケイヒ(桂皮) ブシ末(附子)
■8 加味逍遥散
更年期女性の強い味方。いつも不安や不満があり焦りを感じているタイプに広く使われてトップ10入り!
■効能または効果
体質虚弱な婦人で肩がこり、疲れやすく、精神不安などの精神神経症状、時に便秘の傾向のある次の諸症:冷え性、虚弱体質、月経不順、月経困難、更年期障害、血の道症
■用法・用量
通常、成人1日7.5gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
眠れない
イライラする
のぼせ
気持ちが落ち着かない
くよくよする
加味逍遥散はこれらの生薬でできています。
サイコ(柴胡) シャクヤク(芍薬)
ソウジュツ(蒼朮) トウキ(当帰)
ブクリョウ(茯苓) サンシシ(山梔子)
ボタンピ(牡丹皮) カンゾウ(甘草)
ショウキョウ(生姜) ハッカ(薄荷)
■9 小青竜湯
さらさら鼻汁にはこれ! 鼻かぜだけでなく花粉症にも眠くならない漢方薬は人気です。
■効能または効果
①下記疾患における水様の痰、水様鼻汁、鼻閉、くしゃみ、喘鳴、咳嗽、流涙:気管支喘息、鼻炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、感冒
②気管支炎
■用法・用量
通常、成人1日9.0gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
水っ鼻
鼻づまり
くしゃみ
水っぽい痰
小青竜湯はこれらの生薬でできています。
ハンゲ(半夏) カンキョウ(乾姜)
カンゾウ(甘草) ケイヒ(桂皮)
ゴミシ(五味子) サイシン(細辛)
シャクヤク(芍薬) マオウ(麻黄)
花粉症の薬で眠くならないのはうれしいね!
■10 麦門冬湯
空咳が続いて困っている人に最適の漢方。 末梢に作用する鎮咳薬として広く使われています。
■効能または効果
痰の切れにくい咳、気管支炎、気管支ぜんそく
■用法・用量
通常、成人1日9.0gを2~3回に分割し、食前又は食間に経口投与する。
のどに痰がはりついたような感じ
のどのイガイガ
はげしく咳き込むけれど痰は出ない
風邪の後咳だけ残っている
麦門冬湯はこれらの生薬でできています。
バクモンドウ(麦門冬) ハンゲ(半夏)
タイソウ(大棗) カンゾウ(甘草)
ニンジン(人参) コウベイ(硬米)
多くの鎮咳薬は中枢に働いて咳反射を止める作用だけれど、麦門冬湯は気管支局所に作用して、過敏になっていた局所の刺激を和らげる薬なの。長引く咳を抑えるのに向いている作用ね!
漢方薬に使われる生薬の花々
ボタンピ(牡丹皮) サンシシ(山梔子)
Ⅲ すぐに効く漢方薬を試してみる
速効性のある漢方薬をご存知ですか? ここでは「効き目がゆっくり」という漢方薬のイメージをくつがえす、飲んですぐに実感できる漢方エキス顆粒をご紹介します。
■二日酔い/便秘
二日酔いには五苓散
五苓散の速効性
五苓散は体のなかの水分代謝を改善する働きをする漢方薬です。体にたまっている余分な水分を排出するので、むくみやめまい、吐き気の改善に使われます。水分代謝を改善する漢方薬は他にもありますが、五苓散はアルコール代謝改善も確認されており、二日酔いに対する効果への関係が指摘されています。
タクシャ(沢瀉)、ソウジュツ(蒼朮)、チョレイ(猪苓)、ブクリョウ(茯苓)、ケイヒ(桂皮)の5つの生薬で構成されています。
便秘には大建中湯 桃核承気湯
大建中湯の速効性
腸管運動亢進作用が認められており、腹部膨満感・腹痛のある慢性便秘症や通常の下剤が合わない場合、過敏性腸症候群(IBS)便秘型にも使用されます。
桃核承気湯の速効性
便秘に速効性のある漢方薬としては大黄甘草湯が有名ですが、女性の特に月経前にひどくなるような便秘には桃核承気湯も効果が期待されます。
■乗り物酔い/こむら返り
乗り物酔いには小半夏加茯苓湯
小半夏加茯苓湯の速効性
昔からつわりや急性胃腸炎などによる吐き気・嘔吐に対し、頓服で素早い効果を発揮することが知られている漢方薬です。時代がめぐり移動手段に自動車や船が出現してからは、乗り物酔いにも使われています。
名前は長いのですが、ハンゲ(半夏)、ブクリョウ(茯苓)、ショウキョウ(生姜)の3種類の生薬で構成されています。
こむら返りには芍薬甘草湯
芍薬甘草湯の速効性
急激におこる筋肉のけいれん、つまりこむら返りに速効性を発揮する漢方薬です。こむら返りに速効性のある薬剤は他になく、西洋医学の現場でも芍薬甘草湯は広く浸透しています。漢方薬使用実態調査では、芍薬甘草等は常に使用頻度の高い漢方薬の上位にランクインしています。
シャクヤク(芍薬)とカンゾウ(甘草)の二つの生薬から構成された漢方薬です。
西と東・・・・・・・・その2
ふたりの医聖
西洋医学と漢方医学にはどちらにも医聖と呼ばれる人物がいます。西洋医学の医聖はかのヒポクラテス。紀元前400~300年頃のギリシアの医師で、原始的な医学から迷信や呪術を切り離し、医学を経験科学へと発展させました。漢方医学の医聖は張仲景(ちょうちゅうけい)。150~220年頃の中国の医師で、今なお漢方医学の最も重要な文献として使われる「傷寒論」という書物を書いたといわれている人物です。
Ⅳ 漢方医学を勉強してみる
ここでは漢方医学の考え方について基礎の基礎を簡単にご説明します。患者さんを全人的にみる漢方医学の視点のなかには、医療スタッフのみなさんの日常業務に役立つヒントが隠されているかもしれません。
■「寒」と「熱」
「寒」には温める漢方薬、「熱」には冷やす漢方薬を
漢方薬を使うときのコツのひとつに、症状を「寒」と「熱」に分ける、というものがあります。「寒」には体を温める漢方薬を、「熱」には体を冷やす漢方薬を使うのです。この考え方に馴れておくと、患者さんの訴えからどんな漢方薬を使えればいいか検討をつけやすくなります。
「寒」と「熱」をみるには、
・患者さんの自覚:寒がっているか熱がっているか
・尿や便の色:薄いか濃いか
・脈の速さ:遅いか早いか
・舌苔の色:白いか黄色いか
・舌の色:赤みが薄いか赤みが濃いか
が参考になります。
体を温める漢方薬、冷やす漢方薬
南国の食べ物は体を冷やすので夏に食べるといい、生姜は体を温めるので冬に食べるといい、ということを聞いたことがあるでしょう。漢方薬に使われる生薬にも、体を冷やすものと温めるものがあります。
体を冷やす主な生薬、温める主な生姜
体を冷やす生姜
セッコウ(石膏)
オウレン(黄連)
オウゴン(黄ごん)
オウバク(黄栢)
サンシシ(山梔子)
体を温める生姜
ブシ末(附子)
カンキョウ(乾姜)
ケイヒ(桂皮)
同じ症状にも「寒」と「熱」がある
たとえば2ページで紹介した「かゆみ」をみると、のぼせがあって熱が体内にこもっている人の「かゆみ」と冷えがある人の「かゆみ」では、それぞれ使う漢方薬の種類が違ってきます。熱がこもっている人の「かゆみ」に使われる黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)は、オウレン、オウゴン、オウバク、サンシシという生薬で構成されています。4つの生薬とも体を冷やす生薬です。一方冷えのある人の「かゆみ」には牛車腎気丸(ゴシャジンキガン)がよく使われます。この漢方薬は38ページで詳しく紹介してありますが、体を温めるブシやケイヒを含んでいます。
このように漢方治療では、症状の「寒」と「熱」を見極めて、「寒」には体を温める生薬が多く含まれている漢方薬を、「熱」には冷やす生姜が多く含まれている漢方薬を選ぶ、という考え方をします。
■「不足」と「過剰」
「不足」は補い、「過剰」は減らす
もうひとつ、漢方医学には「足りないものは補う」「過剰なものは減らして平らにする」という考え方があります。
気力・体力が足りないときは気力・体力を補う漢方薬を、体を潤滑に動かす力(漢方でいう「血」)が足りないときは「血」を補う漢方薬を、水分が不足しているときは水分を補う漢方薬を使います。また、興奮しているときは頭にのぼって停滞している気を鎮める漢方薬を、月経痛やうっ血には血の流れをスムーズにする漢方薬を、むくみには水分を排出する漢方薬を使います。たとえば4ページで紹介した補剤は低下している気力・体力を補う漢方薬で、漢方治療の考え方を明確に表現した処方ということができます。
不足したものを補う主な生薬
気を補う ニンジン(人参) オウギ(黄耆)など
血を補う トウキ(当帰) シャクヤク(芍薬)など
水を補う バクモンドウ(麦門冬) ジオウ(地黄)など
過剰なものを平らにする主な生薬
気の流れをスムーズにする コウボク(厚朴) サイコ(柴胡)など
血の流れをスムーズにする