医学博士 小松 靖弘先生 (獣医東洋医学会 副会長)

漢方薬の獣医科領域における活用について

小松 靖弘(獣医東洋医学会 副会長)

私がなぜ漢方薬を獣医学領域で活用してみたいと思ったのかは、もし漢方薬が本当に疾病治療によく効くのであれば、
あまり文句を言わず、勝手なことも言わず、プラシーボ効果が出にくいと考えられるワンちゃん、ネコちゃんの治療に奏功するはずであるとの考えからで、
獣医科の先生には誠に申し訳ないのですが、この辺りの研究を進めて戴けると大変ありがたく思いますし、
漢方薬の有効性に関する情報が集積され、研究も進むものと期待されます。
このような考えは数年前に、本会の会長でいらっしゃる長谷川先生も朝日新聞のコラムに寄稿されておられたと思います。
先生は「医薬品開発の途中でも、実際の疾病動物の治療を試みることは、当該医薬品の開発の妥当性を考える上で貴重な情報を与えるものである」
と述べられておられたように記憶しています。この考えに私もまったく賛成で、異議を唱えるものではありません。
そこで、私はこの考えを積極的に漢方薬の薬効解析に導入し、その効果を明らかにすると同時に
ワンちゃん、ネコちゃんの病気の治療に役立たせたいと考えているわけです。
そこでまた登場するのが、あの“川瀬先生”です。川瀬先生は漢方薬を正式な動物用医薬品として何とか米国のFDAに認めさせたいと考えておられ、
そのためにはやはりきちんとした薬効の科学的解析が欠かせず、それも米国内で、米国人によって研究が実施される必要性と重要性について主張されています。
そして、川瀬先生とアメリカ出張となって、オハイオ大学で左向先生にお会いすることになり、
Dr.Buffington と猪苓湯の尿路結石症治療効果の関係を明らかにする研究がスタートすることになった次第です。
その結果は Amr.J.Vet.Res. などに発表され、また国内ではそれらの結果を基に本好先生、
神戸の安田先生を中心にネコの尿路結石症の治療効果について臨床治験が行われ、動物用医薬品として正式に承認を得ることができた経緯があります。
これをきっかけとして木防巳湯についても動物薬として承認が得られました。漢方薬の薬効解析に関する研究はこれで終わりではなく、
この結果を基にさらに一歩も二歩も進めなければならないし、これからが本当の意味での薬効解析研究の始まりであると私は思っています。
日本は世をあげて高齢化社会における健康の在り方についていろいろ論議されていますが、
ワンちゃん,ネコちゃんの世界ではより早く高齢化の問題が進んでいると私は思っています。
漢方薬の加齢に対する効果を検証していく作業の中で、これらコンパニオン・アニマルを用いて研究していくのは
大変興味があるのと同時に重要な課題であると考えています。
また、近頃はやりの生活習慣病についても、ワンちゃんと散歩しているご主人様両方が肥満になっていて、
同時に治療が必要な光景を見ることがしばしばあります。
そこで、わが獣医東洋医学会の先生方に漢方薬をいかに上手に使って、
これら疾患の予防、治療に役立てられるか、是非新たなる研究を展開して戴きたいと思っております。
どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

獣医東洋医学会 ニュースレター NO.1 掲載記事より 引用


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